「M-13回戦敗退常連の漫才師のテンション」MOTHER マザー わたろーさんの映画レビュー(感想・評価)
M-13回戦敗退常連の漫才師のテンション
予告編を見ただけで、きっと胸糞映画なんだろうなという予測のもと鑑賞。子役さんにこんな現実もあるかもしれないということを教えても良いのかと問いたくなるくらい、ずっと重い話でした。
胸糞映画自体は嫌いじゃない。常人には理解できない行動をとっていたとしても、その行動を取ってしまう理屈や芯さえはっきりしていれば、自分の中で善悪を超越した感情が生まれる。
ただ、この母親の心理が自分の読解&推察力では全くもって理解できなかった。度々出てくるセリフの「自分の子どもなんだから、どう育てても良いでしょ」というのはなんとなく分かるんだけど、じゃあ「どう育てたいのか」が見えてこない。
自分の子どもを絶対服従させたいんだったら、子どもの前で泣いたりしないと思うし、「○○しなかったら○○になっちゃうよ~」より「○○しなさい」という言い方が多用されると思う。とはいえ、DVをする交際相手にハマっていくパターンって確かにそうした逃げ道のような地獄が提示されるからこそ…っていう感じらしいので、自分には分からない世界ということだったのかもしれない。
母親は子どもを使ってお金を得ようとする反面、男との性行為に明け暮れる場面がかなりある。そこでの子どもの立ち位置もいまいち分からなかった。
1つ好意的に解釈するなら、神社でキャッチボールをするシーンがあって。母親が投げたボールを子どもは直接捕れない。子どもが投げたボールには母親はきっちり受け取るか無視するか。そして、どちらも「何度もバウンドしたボール」のやり取りというところが、母と子の関係の歪みを表す面白い演出だったと思う。
あと、画面が止まっているより揺れているシーンが多いのも面白かった(画面酔いするくらい)。
この映画の一番残念だったことは、メリハリがないこと。特に長澤まさみと阿部サダヲの件は、ただただうるさいだけ。感情がストレートにぶつかっていると言えば聞こえは良いけれど、ここで示したい母親のないし母親への狂気じみた愛情にはギャップが必要だったんじゃないかなと思ってしまう。前述したように演出の技量は高いのに、ただ大きい声を出していればエモーショナルに聴こえると錯覚してしまうのは、M-1グランプリの3回戦まではいくけれど、そこから先にはいけない漫才師のテンション芸に似ていると思ってしまった。
ラストカットで母親は「母が子を愛するのなんて当たり前でしょ」って言いたかったのかなと想像させるような余韻はありますが、全体的には自分と合わなかったです。奥平大兼さんはデビュー作とは思えないくらいの佇まいだったので、今後も楽しみです。