ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へのレビュー・感想・評価
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幸せの花が咲くのはいつか?
作中でムヒカが最初に登場したのが自身が始めた貧しい人たちへの住居支援プロジェクト。
現場へ赴き車から降りるや否や、たくさんの子供たちが駆けつけ彼を取り囲む。
その様子はまさにお爺ちゃんと孫たち。
ムヒカ・ルシア夫妻の間には子供はいなかったが、いるのだ。
自分たちが人類を愛しているからと語っていたようにまさにそれを表していた。
タイトルにもあり作中多々発せられる"貧しい”だが、どちらかというと"豊かさ“について考えさせられた。
どちらにしても大事なのは心であり、魂なのだ。
自分がお金持ちになっても他の人たちは幸せにはならない。
自分が何か好きなことや楽しいことをやると、それがいつの間にか誰かに影響を与え、みんなで幸せになれるのだ。
ムヒカが言っていたように全員が彼の考えに賛同する必要はない。
ただ、この作品を見てそれぞれが自分を見つめ直し考えるところから、ムヒカが撒いた種が芽を出し始めるのだろう。
言葉のひとつひとつに感動を覚える
政治家が自分の言葉で世界観や政治理念を語るのは、実は当り前のことなのだが、久しくそういう政治家を見ていないせいか、ムヒカの言葉のひとつひとつに感動してしまった。「なぜ君は総理大臣になれないのか」を観て感動したのも同じ理屈だと思う。
ヒロシマを視察したあとにムヒカは、倫理や道徳に縛られなければ科学は恐ろしい兵器を作ってしまうという意味の感想を述べたが、奇しくも本作品の公開に合わせたかのように、スカ内閣が日本学術会議の会員を任命しなかったことが報じられている。日本学術会議は科学者が結果的に侵略戦争に加担したことの反省を踏まえて設立されたご意見番の組織である。そのために予算をつけているのだ。
日本国憲法第6条に「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する」とある。日本学術会議の会員を内閣総理大臣が任命しないことが「法律に基づいた適切な処理」(byスカ総理)であるなら、天皇が内閣総理大臣を任命しないことも可能だ。しかしこの質問をぶつける記者はいないし、スカ総理も説明しない。スカは世界観も政治理念もないから話をすること自体ができない。だから「学問の自由とは全く関係ない。それはどう考えてもそうではないか」などという発言になる。どう考えてもそうだなどというフレーズは何も考えていない人が使うフレーズだ。こんな言葉を全国民に対する説明責任を負っている総理大臣が使うのだ。
テレビのワイドショーでは、国から予算をもらっているくせに、政府のやることに異を唱えるのはおかしいなどという評論家の意見が垂れ流される。国家主義そのものだ。マスコミの姿勢がこんなふうなら、国民に真実が届くことはない。かつての総理大臣田中角栄は自分に反対の意見を言った人にお礼として金を渡していたという。日本学術会議に予算をつけるのと同じである。しかしいまの政治家にそんな度量はない。僻み根性丸出しの拝金主義者たちばかりだ。日本はもうお終いである。お終いdeath!
ムヒカは他国民や他国の文化に対して一様に敬意を払う。それは世界を俯瞰して政治を行なう立場であり、戦争を回避するために互いに尊重し合う平等の精神性である。自国を「天皇を中心とした神の国」という発言をした総理大臣の幼稚な精神性とは100年くらいの違いがある。とは言っても日本の政治家があと100年かけてムヒカのレベルにまで上がれるかどうかは定かではない。
威張らない、自慢しない、高圧的でない、頭ごなしに否定しない、作業を厭わないという姿勢は、日本で考えてみれば働き者の好々爺である。威張って自慢ばかりして高圧的で他人のことはすぐに否定して細かいことは官僚任せの日本の政治家とちょうど正反対だ。
政治家は言葉が生命である。政治的な信念を持って発言しなければならないし、言った言葉には責任を持たなければならない。政治家の言葉は重いのだ。日本は7年8ヶ月に亘る嘘つきの総理大臣のおかげで、すっかり言葉の重さがなくなってしまった。そして今度は言葉さえまともに話せず、所信表明演説をパスするような不誠実な人間が総理大臣になってしまった。
ムヒカの重い言葉のひとつひとつに感動を覚えながら、一方では日本の政治家の軽い言葉のひとつひとつを反芻して憤りを覚えつつの鑑賞となった。ムヒカの評価については賛否さまざまあることは承知している。しかし彼は自分の言葉で語る。日本では自分の言葉で語る政治家が報道されることはまずない。嘘つきの総理大臣、嘘つきの幹事長、嘘つきの官房長官の言葉がまことしやかに報道され、情報処理能力に欠ける国民はそれを信じてしまう。
嘘も100回言えば本当になるとはナチスドイツの高官の言葉だ。再び日本が戦争を始める前に、ムヒカのことを教科書に載せて、政治家が如何にあるべきかを子どもたちに示すのがいいと思う。
José A. Mujicaが語る「日本」
彼については、すでに多くの映像や本があり語りつくされている感もあるかもしれないが、本作では田部井監督独自の視点を通した元大統領の人柄や考えがみえてくる。その視点はまぎれもなく「日本人」からみたMujicaであり、またMujicaからみた日本のいまの姿である。
Mujicaの目には日本の今の姿が良い面と悪い面が複雑に絡みあってみえている。
明治維新以降、そして戦後復興で目覚ましい経済発展を遂げた「豊かな」日本。一方で経済発展のためにすべてを西欧化して、日本古来の伝統や文化や心を失っていった「貧しい」日本。
彼個人の実体験では、近所に住んでいた日系人から多くのことを学んだとのこと。親日家であり多読家である彼ならではの視点で、今の日本人が気づかないこと、忘れてしまっていることも多々あるはず。彼からもっとたくさんのことを学びたい。
元左翼活動家が一国のトップにつくことは、日本では想像も出来ない。
そう考えると、出自や肩書が重視される日本という国は、やり直しも許されない心の狭い国なのか。
それとも、過去の「罪」を問うより、その人の一貫した行動力や人柄を見極める力が、ウルグアイ国民の方が日本国民よりも優れているのか。
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