「実写ならではの表現で映像化されていて原作ファンとして満足でした」弱虫ペダル tebasakiさんの映画レビュー(感想・評価)
実写ならではの表現で映像化されていて原作ファンとして満足でした
原作は全巻、アニメも全話観ています。ロードは少々。
弱虫ペダルの原作の一番の魅力は一つのゴールに向かってチームが仲間を信頼しながら全力で戦う中で、総北高校、箱根学園をはじめとする各校の個性溢れるキャラクターが発する魅力ある台詞の数々で、それが一年次、二年次のインターハイの中で特に顕著に表れています。一年次のインターハイだけで単行本では9巻から27巻まで続いており、作者をして「漫画史上最長の1試合?」と言わしめるくらいの長い戦いです。
二時間という限られた時間の中にこれらの魅力全てを詰め込むことは不可能なので、作品の中では描くものを絞り、さらにその中から割愛するものを選び、残したものを繋げるために、設定の変更や脚本の工夫が必要となります。
実写映画という手段を選んだ以上、漫画やアニメでは表現できない実写ならではの表現を期待していましたが、そこの取捨選択は完璧だったように思います。自然の景色の美しさはアニメの比ではなく、自転車を漕ぐ時の筋肉の動きの美しさや、レースの雰囲気は漫画やアニメとは比べものにならないくらいよく伝わってきました。特に坂道のハイケイデンスクライムをCGなしの実物の自転車の映像で見られたのは本当に良かった。
原作では要所要所に昔話が挿入されて、各キャラクターの個性がじっくりと描かれている反面、ストーリー展開が遅いと感じたりしましたが、映画ではテンポよく話が進んでいき、多少の設定変更はありましたがエッセンスのみをしっかり残していたと思います。坂道と今泉・鳴子との出会いから自転車競技部入部に至るまでの経緯は必要十分な量で描かれ、自転車を漕ぐ姿のリアルを表現するインターハイ予選パートにしっかりと尺を残していました。
ただ、原作を読んでいるので、坂道、今泉、鳴子をメインで描くために彼らの見せ場を作ることが目的化したような金城のオーダーには違和感を感じました。描くべきものを描くためにこういうオーダーになるのは仕方のない面はあるのですが手法としてやや強引かなあと思います。金城と巻島ではなく坂道と今泉を出した理由にはちょっとした不可抗力の理由をいれて欲しかったと思います。ライバルにブロックされたくらいであっさりと引くようでは石道の蛇が泣きます。劇場での感想は「三年生働けよ」でした。実力強化のために最初から1年生だけで獲りに行く戦略をとるというような事前設定でもあれば自然な形で一年生3人をメインに据えられたと思えるだけに残念。この辺の辻褄がもう少し考えられた脚本だとなおよかった。
とは言え、全体としては、実写ならではの表現で十分に描かれ、うまく二時間にまとめあげ、アニメと同じ服を着て同じことをやっているだけの映画にならず、実写でしかできない作品に仕上がっていたと思います。主役の永瀬さんをはじめとする皆さんの役作りの努力がそのまま画に表れていたものと思います。
一原作ファンとして十分に楽しめる作品でした。