「挑発的な反骨の象徴が、契約に雁字搦めにされていたというアイロニー。」エルヴィス Y.タッカーさんの映画レビュー(感想・評価)
挑発的な反骨の象徴が、契約に雁字搦めにされていたというアイロニー。
「キング・オブ・ロックンロール」エルビス・プレスリーの生涯をバズ・ラーマンお得意のポップでゴージャスな映像で映画化。
全編奇をてらった作り方。
まずはロックンロールだけでなく、大方ヒップホップとのミクスチャーミュージックが彩るという、エルビスを描く上で常識に囚われない音楽面での大胆不敵なチョイス。少し違和感を感じたものの、ロカビリー自体R&Bとカントリーのミクスチャーであると考えれば、なるほど現在に映画化するのであればこれはこれで面白い。
またプレスリーを搾取し続けてきたマネジャー、トム・パーカー大佐の回想というプレスリーと反対側からの主眼で、プレスリーの人生を語らせていく。50年代の保守体制への強烈なカウンターカルチャーであるロックンロールのカリスマが、商業に飲み込まれて行く様がつぶさに描かれる訳だが、挑発的な反骨の象徴が、契約で雁字搦めにされていたというのは哀しく、皮肉的でもある。ただそういった悲劇的な面を強調して描くあまり、プレスリーの内面の描写が弱いと感じた。電光石火でプレスリーの人生を駆け抜けていくスピード感は悪くないが、もう少しドラマ的な引っ掛かりが欲しいところ。
プレスリーを演じた、オースティン・バトラーのなりきり振りは鳥肌もの。ルックスはそこまで似ている訳ではないのに、話し方、歌い方、佇まいでプレスリーが蘇ったかのような錯覚をさせる大熱演。だからラストでプレスリーの実映像が出てくるのは完全に蛇足だろう。
片やトム・パーカーを特殊メイクでブクブクに太ったトム・ハンクスが嬉々と演じる。狂言回しでもあるので、その辺りはハンクスの安定感のある演技と表現力が物を言っている。
ハデハデな映像絵巻とミクスチャー音楽が彩るコミックのような作品で、伝記ドラマとしての見応えはかなり淡泊。エルビスの人生を観るというよりも、バズ・ラーマンの作家性が過剰に出過ぎた印象の作品だ。