劇場公開日 2022年7月1日

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「ざっくりしているのは本人の視点からではないからだっ!!」エルヴィス バフィーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ざっくりしているのは本人の視点からではないからだっ!!

2022年7月17日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマンにとって、初の実在人物の伝記映画ということで、アート系監督が、どう料理するのかが気になって仕方なかった本作。

見事なまでなエンターテイメント・ショー、そして紛れもなくバズ・ラーマン映画でありながら、自伝映画の新境地ともいえる作品になっていたのだ。

単純にエルヴィス・プレスリーの伝記映画として観ると、物足りなさやざっくり感をどうしても感じてしまうだろう。しかし、今作はエルヴィスの自伝ではなく、マネージャーであるトム・パーカーの視点で描かれている、少し俯瞰から見た伝記映画という特殊構造であることから。ある言い訳が成り立つようになっている。

それは、「本人ではないからっ!」ということ。

そうじゃなければ、エルヴィスという偉大なアーティストを2時間半で描ききることはできないし、4時間のバージョンも存在しているといわれているぐらいだ。

近いところでいうと、ジェニファー・ハドソン主演でアレサ・フランクリンの半生を描いた『リスペクト』も本人の視点だからこそ、ざっくりしていることに不満が残ってしまうし、『ドリームガールズ』のようにエンターテイメントに振り切ってしまうとドラマ性が薄くなってしまう。しかし、近しい人物の俯瞰的なものだとしたら、どちらも網羅していて、伝記映画の難点をどちらもカバーできているのだ。

本人ではないから、従軍していたことや、結婚、子どもの誕生、離婚、母の死、父との距離感、ドラッグ依存……といった、エルヴィスにとっての分岐点や印象的な出来事というのが、ざっくりと描かれていている。

今作は、トム・パーカーの目から、エルヴィスという人物はどんな存在だったのか……を描いたもの。

だからこそ、トム・パーカーにとっての印象的なシーン。エルヴィスのステージを初めて見たとときのインパクトだったり、契約を交わした日の会話、商品としか思っていなかったはずの相手に思わず感情移入してしまったときなどが丁寧に描かれている。

そうはいっても、エルヴィスを演じているオースティン・バトラーがまさかの吹替えなしで歌っているのはかなり衝撃的である。今までのエルヴィスの伝記映画『ザ・シンガー』やテレビ映画『 ELVIS エルヴィス』も吹替えだったというのに、ほとんどのスタージ・パフォーマンス(アーカイブシーンのちょっとした歌はエルヴィス本人のものだが)をオースティンが歌っているのだ。それだけでも凄いことである。

バズ・ラーマンによるエンターテイメント要素もりもりのカロリー高めな作品ではあるが、2時間30分の時間は全く感じない。休憩さえ入れてくれれば4時間バージョンでも観てみたいと思わせてくれる。

バフィー吉川(Buffys Movie)