「バットマンはこうでなくては。」THE BATMAN ザ・バットマン アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
バットマンはこうでなくては。
字幕版を鑑賞。時系列で言えば 2005 年公開の「バットマン・ビギンズ」の2年後という設定である。シリーズとしては 2019 年公開の「ジョーカー」が前作となるが、話の繋がりはない。個人的に、今までの最高傑作が「バットマン・ビギンズ」であり、最低作が「ジョーカー」だと思っている。画面の暗さなど映画の雰囲気は「バットマン・ビギンズ」ではなく「ジョーカー」寄りだったのがやや残念であった。
悪のヒーローが思慮の足りない身勝手な行動に終始して、自分に助力をくれた人たちばかりを殺害する「ジョーカー」の世評が高いのは全く釈然とせず、こんな調子ならもう見なくてもいいかと考えていたのだが、今作は前作とは比べ物にならない見応えある作品になっていた。映画の冒頭には、ジョーカー風のメイクをした悪ガキどもが出て来るが、全く敵でないことが示されて胸がすく思いがした。やはり、バットマンはこうでなくてはダメだろう。
本作のラスボスの正体が判明するまでにはかなりの時間を要しており、それまで犯人の残虐性と偏執性が描かれていて、3時間近い上映時間で緊張感が切れることはなかった。犯人像はかなり「ゾディアック」のテイストを持っており、バットマンの敵としては非常に異色だと思った。ただ、「光を辿れ」というヒントが何の捻りもなかったり、犯人の信奉者らしき奴らが登場するのにはいささか腑に落ちないものを感じた。ネットで犯人の動画を面白がっているという状態と、自分も武器を手に取って犯行に加担するという状態には天と地ほどもギャップがあるはずである。
両親の昔話を疑いもせずに鵜呑みにするというのも情報リテラシーを考えれば無邪気に過ぎる気がした。キャットウーマンとの馴れ初めも興味深く見ることが出来たが、いつの間にそんなに親密だったのかという状況がほぼ全く描写されていなかったため、非常に唐突な感じを受けた。あれほどの犯人ならいくらでも手の込んだ仕掛けを周到に用意しているのではという予想が、これまた結構簡単なものだったのには少し脱力した。
今作のバットマンが TENET のニール役の人だということにはかなり後になって気が付いた。雰囲気が随分違うのに感心した。また、ペンギン役がコリン・ファレルだったということはクレジットを見るまで分からなかった。現在、ペンギンを主役にしたスピンオフ映画の計画が進んでいるらしいが、「ジョーカー」の二番煎じにならなければいいなと思わずにはいられない。
音楽はジュラシック・シリーズや猿の惑星シリーズで確かな手腕を発揮していたマイケル・ジアッチーノで、本作でも素晴らしい仕事をしていた。シューベルトの「アヴェ・マリア」やベートーヴェンの「皇帝」の第2楽章の引用もセンスの良さを感じさせた。暗い画面が多いのだが、カラヴァッジョの絵画のような漆黒の闇ではなかったのが少し残念だった。ゴッサム・シティは架空の都市であるが、多くのシーンがシカゴでロケされていて、懐かしさを覚えた。
(映像5+脚本4+役者4+音楽5+演出5)×4= 92 点。