マトリックス レザレクションズ : 特集
【ネタバレ解説・考察】24の疑問に編集長が徹底回答
モーダルとは?あの人物は何者?物語の本当の意味は?
これを読み“もう一度”本作を観に行こう!
その映像革命により“映画の歴史を変えた”とされる傑作「マトリックス」シリーズの最新作「マトリックス レザレクションズ」が、12月17日に日本公開を迎えました。
同シリーズは極めて哲学的なテーマや斬新なスタイリッシュさが特徴で、最新作「レザレクションズ」もそれを色濃く踏襲。主人公たちが迷宮的な“マトリックスの世界”を手探りで生き、戦う姿が描かれるため、観客にも十分な説明がなされないまま物語がずんずんと進行していきます。
セリフも専門用語が飛び交いつつハイスピード、さらに深遠な言い回しを多用しており、製作陣が「観た人の数だけ解釈が存在する」ように設計していることは明白。そのゆえ、1度観ただけで理解しきることは至難の業……ですが、状況を整理し、いくつかの言葉やシーンの意味を明確にしていけば、実はかなり簡単に物語を掌握できる作品でもあるんです。
そしてもう一つ重要なことは、物語を理解したうえでもう一度「レザレクションズ」を観ると、新たな映画体験の扉が開くということ。つまり、二度目の鑑賞のほうが絶対に面白いんです。
【ネタバレ考察】映画.com編集長がQ&Aで徹底解説
本記事では「『レザレクションズ』はよくわからなかったけど、ちゃんと理解したい」というユーザーのために、映画.com編集長・駒井尚文による解説を用意しました。業界きっての「マトリックス」フリークであり、かつて「マトリックス完全制覇 今さら聞けない『マトリックス』の謎Q&A100連発」というムック本を出版した駒井が、可能な限り多くの「あれどういう意味?」などの疑問に答えます。
例えば「モーフィアスは、あなたの知っているモーフィアスではない」「スミスも、あなたの知っているスミスではない」「アーキテクトの後任、アナリストが新しいマトリックスを創った」「ネオは、ブレていない。あなたの知っているネオになる」「トリニティーが、この映画のジョーカーだ」etc……ここで理解を深め、めくるめく二回目の「レザレクションズ」の旅へと出発していただけますと幸いです。
※注:ここでは仮想現実のことを「マトリックス世界」、仮想現実内のゲーム作品のことを「MATRIX」と呼称しています。
※作品鑑賞後の映画.comスタッフや、ユーザーからの疑問の声を集めました。以下、編集長・駒井がネタバレありのQ&A方式で回答していきますので、作品未見の方はご注意ください。
A.これは、シリーズ3部作「マトリックス」「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューションズ」の続編ということで間違いないでしょう。(公開前は)「1作目の続編」だとか「リブート」だという噂もありましたが、正統な4作目と解釈するのがまっとうだと思います。本作をもって「マトリックス4部作」と見なすか、「3部作+1」とするかは、時代が経ってから分かるでしょう。
A.今回の「マトリックス レザレクションズ」では、キアヌ・リーブス演じるトーマス・アンダーソンは新たなマトリックス世界に生きていて、ゲームデザイナーという設定になっています。彼のデザインした「MATRIX」は、1999年の最優秀ゲームに選ばれたようです。トロフィーが飾ってありましたね。
大変ややこしいので、今後、この特集ではゲームを「MATRIX」、仮想現実の世界を「マトリックス世界」と呼び分けることにします。
A.はい、そういうことです。今回「レザレクションズ」では、「マトリックス」はビデオゲーム3部作で、それを作ったのはトーマス・アンダーソン(ネオ)という設定でした。
旧3部作でネオやトリニティーたちが機械(AI)と戦った一連の活動は、マトリックス世界では“ゲーム「MATRIX」”として表現されており、そのゲームは大変に有名。ある人々にとっては人生を左右するほど影響力があるものだという設定になっています。まずは、この“入れ子構造”をしっかり理解して再鑑賞すると、さらにグッと面白くなりますよ!
A. 今作における重要人物のひとりですね。マトリックス世界にハッキングしたり、赤いピル・青いピルを携帯してたり、役割と責任が非常に大きい。モーダルにいる時、モーフィアス(初対面時はエージェント・スミスとしてでした)がバッグスに会って「あなたは何者だ?」と尋ねます。バッグスは「私はデジタルのセンティエントよ」と。センティエント(Sentient)というのは、“感覚のある生物”という意味。マトリックス世界において、感覚を持って自由に活動でき、機械と戦い、人類の解放を求めて戦うパルチザンみたいな存在ですね。
A. 今回、オリジナルキャストのローレンス・フィッシュバーンではなく、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世が演じています。モーフィアスの、ネオに対する次のようなセリフがあります。「私の担っている役割から想像するに、君が生み出した私という存在は、本当の君を引き出した2つの力の合体だ。モーフィアスとエージェント、真逆のプログラムのコンボ・パックだ」。
つまりトーマス・アンダーソンがゲーム「MATRIX」の中に作ったモーダルに登場するキャラであり、モーフィアス×スミスという属性を持った人物なんです。やがてバッグスに赤いピルを処方されてモーダルから連れ出されます。
A.今作におけるモーフィアスは、(実体はなく)プログラムです。バッグスが「MATRIX」からモーフィアスを連れ出しました。あの粒子状の姿は「エクソモーフィック粒子コーデックス」といって、プログラムが現実世界にアクセスしたときの形態のようです。
A.「マトリックス レザレクションズ」では、スミスとネオことトーマス・アンダーソンは同じ会社の同僚です。彼らが勤めるのはデウス・マキナという会社で、スミスがCEO、トーマス・アンダーソンがゲームデザイナー。代表作は「BINARY」そして「MATRIX」です。クライアントはワーナーブラザースで、「MATRIX」の続編を作ろうとしているようです。大胆なセルフパロディーですね。
A.これは、3部作でスミスを演じたヒューゴ・ウィービングがスケジュールの都合で出演できなかったことが影響しているでしょう。今作では、ジョナサン・グロフがスミスを演じています。スミスが、劇中で自らのキャラについて、旧3部作よりも「さらに完璧なキャラクターになっている。だが、青い目ってのはやり過ぎじゃないか?」と語って笑いを取ろうとしています。
A.現実と妄想の区別がつかないトーマス・アンダーソンは、セラピーに通っています。このセラピストは、実はアナリストの別の姿。アナリストは、今回のマトリックス世界を構築したエンジニアで、旧3部作における「アーキテクト」と同じ役割です。演じるのはニール・パトリック・ハリス。ネオとトリニティーを蘇生し、再びポッドに入れたのもアナリスト。システムを掌握する存在ではあるものの、実は彼は雇われの身で、「スーツ」と呼ばれる人たちに仕えています。
A.今回、キャリー=アン・モス演じる人物は、トリニティーではなく、ティファニー(通称ティフ)という名前で登場します。これは、アナリストが作った設定で、マトリックス世界を維持するためにはトーマス・アンダーソン(ネオ)とトリニティーの2人が必要(後のQ14で詳しく解説します)だが、過去の試行錯誤の結果、この2人はあまり親密でない方がいいという結論となった。なのでマトリックス世界のなかでは「同じカフェで時々会うが、恋愛関係にはない」という設定となりました。
A.マトリックスの新バージョンがアップロードされた時に、消去されたんだとバッグスがネオに言っています。ネオは「奴らは平和を約束したのに消したのか?」と聞きますが、バッグスは「平和な時はあったけど、あなたのおかげで変わったのよ」と答えます。
A.バッグスが、ネオに説明するシーンがあります。「アナリストたちは、あなたのデジタルイメージを変えてた。センブランスというフィードバックシステムでデジタルイメージを生み出すの。これがあなたに見える自分、ただしデジタルイメージが変更されたためにほかの人にはこう見える」。
A.劇中では「マトリックス レボリューションズ」以後の世界がどうなったのかが、アイオの存在を通じて明らかになりました。人類と機械の戦いの結果、人類は解放されて平和が訪れました。しかし、おかげで機械の発電所は十分な電力を産出できなくなり、機械同士が戦争を始めました。
人類の新しい指導者となったモーフィアスは、預言者の「新しい力が生まれる」という言葉を信じなかったために、ザイオンを滅ぼしてしまったようです。その後を継いだナイオビが、機械と人間が共生する都市、アイオを作ったということのようです。
A.大事な質問ですね。それは、マトリックス世界の発電力を確保するためです。「レボリューションズ」の戦いの後、平和が訪れて人類が解放される一方、マトリックス世界の発電力はガタ落ちし、機械同士が戦いを始めるに至りました。ナイオビが語った“機械の戦争”がそれです。ところがネオとトリニティーが接触することで、ひときわ高い発電エネルギーが放出されることがわかった。機械たちは電力不足と戦争という危機的状態を脱するため、アナリストがスーツたちに頼んで高いコストを払ってもらい、ネオとトリニティーを生き返らせたうえで、2人をポッドに戻したのです。
A.(旧3部作ではすべての機械が人間と敵対していたが)新しいマトリックス世界では、人間の味方になる機械がいます。シベーベ、オクタリーズ、ルーミン・エイトなどは、こうしたシンシエントの仲間です。「マトリックス レザレクションズ」では、シベーベがネオをポッドから救出しています。
A.旧3部作では有線電話を使っていましたが、有線電話が激減してしまった21世紀の現代にそぐわなくなったので、設定を変更したんだと思われます。セコイアが「鏡のハッキングは大変だ」と言うシーンがあります。電話機は信号を発するので、楽にハッキングできたんでしょう。
A.バッグスが、「移動するポータルは追跡されにくい」と言っています。マトリックス世界には、外部からの攻撃などを受けづらい「ポータル」という空間がいくつもあるようです。東京を走る電車もそのひとつで、移動可能なポータルといえます。何で他の都市じゃなくて東京なのかと言えば、「マトリックス」のスタッフ・キャストのみんなが東京を大好きだからではないでしょうか。ちなみに本作の脚本家の1人、デビッド・ミッチェルは、妻が日本人で、東京を舞台にした小説を書いています。
A.これは1作目から出てきます。黒猫が登場すると、デジャヴーが起きたことを表します。通常は「既視感」のような意味で使われる単語ですが、マトリックス世界の中では「プログラムを書き換える」という意味合いで使います。黒猫登場以前に壁にあった扉が、脱出ルートとして使われたらシステム側が困るので、黒猫の後は塞がれている、などです。システムが書き換えたんですね。「マトリックス レザレクションズ」では、終盤のトリニティーに関する重大局面で、アナリストがデジャヴーを試みる場面が見られます。
A.リーダー(早口でしゃべりまくっていたやつ)は“メロビンジアン”という名で、「マトリックス リローデッド」に登場していました。「マトリックス最古のプログラムの1つ」と説明されていて、モニカ・ベルッチをはべらせて、優雅にワインなどたしなんでいました。
彼は今回のマトリックスの再起動の時に消去されそうになったのでしょう。しかし彼は消去を拒んで、エグザイル(放浪者)となってしまったようです。フェイスブックやWikiリークスに悪態ついてますけど、完全に時代から取り残されたんでしょうね。「これが終わりではないぞ、私が続編のスピンオフを作ってやる」という捨て台詞を残していました。
A.いい質問ですね。今作でマトリックス世界のシステムを司るアナリストが「前任者」という言葉を使っていましたので、アーキテクト(=前任者)は、オラクル(預言者)ともども消去されたんだと思います。機械同士が戦争を起こして、電力不足になったことが原因でしょう。アナリストの前任者であったアーキテクトは、正確さを尊び、実証と方程式ばかりを重視していましたが、アナリストはかなりの柔軟性をシステムに加えたようです。
A.私の個人的見解ですが、ウォシャウスキー監督が性別適合手術を経て女性になったことが要因の一つではないかと思います。(「レザレクションズ」はラナ・ウォシャウスキー監督の単独作品だが)女性が活躍する映画を、女性監督として撮りたかったのではないかと(ちなみにエンドロール直前のアナリストとの一連のやり取りは、何度でも観たいくらい爽快でしたね)。
A.その質問を待っていました。今作でサティーは、トリニティー奪還を進めるネオたちに協力しました。実は初登場ではありません。「マトリックス レボリューションズ」において、マトリックス世界内のトレインマンが支配している鉄道の駅で、両親と一緒に電車を待っていたあの少女がサティーです。立派に成長したんですね。「レボリューションズ」のラストシーンでは、サティーがオラクルに「ネオにまた会える?」と尋ね、オラクルが「会えるかもね。いつか」と答えています。ぜひ、確認してみてください!
A.エンドロールに、このゲーム会社の重役を演じていたキャストとして、ジョン・ゲータの名がクレジットされていました。ゲータは旧3部作の視覚効果担当で、バレット・タイムを発明した人物です(「マトリックス」の1作目でアカデミー賞視覚効果賞を受賞しています)。つまりゲーム会社の人たちは、旧作の関係者が演じているというイースターエッグです。他にも、縁の深い人々がどこかに出演しているかも知れません。
A.はい、最重要クエスチョン来ましたね。映画の冒頭で、バッグスが、マトリックス世界のハッキングの最中に「これはモーダルの一種よ」と言っています。モーダルというのは、コンピューターのユーザーインターフェース(UI)用語で、システムが特定の機能の使用に制限されていることを指します。
※とてもややこしい概念で、解説もややこしくならざるを得ないので、PCやデジタル技術に興味がない方は読み飛ばし、次項目のレビューへ進んでいただいて大丈夫です。
例えばWebブラウザにおける「モーダル・ウィンドウ」を例にとりましょう。ECサイトなどのログイン画面を思い浮かべてください。親画面の上に開く子画面(ログイン画面)は、一度開いたら、そのウィンドウの中にある機能を実行し、「送信」ボタンを押すとか、右肩の「X」ボタンをタップしないと閉じない、それを閉じないとメイン画面に戻れないという仕様になっています。この子画面がモーダルです。
「マトリックス レザレクションズ」のオープニングは、第一作目の「マトリックス」と同じ場面が登場します。「Heart O' the City」というホテルの一室で、トリニティーがPCでハッキングを行っています。すると、ハッキングが逆探知されて、警官がホテルの前に集まって来る。エージェントもやって来て、警官に「今ごろ君の部下は皆殺しにされてる」と伝えます。トリニティーは、部屋に押し込んだ警官たちをやっつけて、屋上から隣のビルへと逃げていく……。
以上がモーダルです。つまり、第1作目のオープニングはモーダルだったのです。そして、アップデートが加えられた同じモーダルに、今回、バッグスたちがハッキングして侵入したと。
こうしたモーダルは、ゲーム「MATRIX」の中にも存在します。トーマス・アンダーソンの部屋のシークエンスがそれです。バッグスは、モーフィアスに赤いカプセルと青いカプセルを出し、バッグスはモーフィアスをそこから連れ出します。バッグスは、「このモーダルを作ったのは誰?」と自問しますが、後になって、それを作ったのはトーマス・アンダーソンだということが分かります。
つまりモーダルとは、マトリックス世界の人々の日常生活とは関係のないプログラムで、何か特定の目的のために作られたプログラムということになります。バッグスによれば、モーダルとは「プログラムを進化させるシミュレーション」とのこと。ネオがモーフィアスと柔術の訓練をする道場みたいな場所も、モーダルのひとつだと解釈できるでしょう。
以上、ひとまず解説は終わります。最後に、「レザレクションズ」の鑑賞レビューをお楽しみください。
編集長レビュー/「マトリックス」に時代が追いついた
映画史塗り替えた歴史的・記念碑的傑作の意義を考える
編集長・駒井尚文:今回、「マトリックス レザレクションズ」を楽しみに待つ間、「マトリックス」「マトリックス リローデッド」「マトリックス レボリューションズ」の旧3部作を改めて鑑賞し直していました。
1作目「マトリックス」から22年経っていますが、いかにこの3部作が時代を先取りしていたのか、今見ると感慨もひとしおです。
●時代を20年先取りしていた「マトリックス」3部作の凄さと、懐の深さまずこの映画では、人間が暮らしているのは、AIが創った仮想空間で、そこで起きている出来事は現実ではない。つまり「バーチャル・リアリティ」という概念を先取りしています。今でこそVRとかARという言葉は巷に溢れていますが、ここまでVRオリエンテッドな世界観を1999年に呈示していたというのは衝撃的ですらあります。
また、AIが人間を支配する世界は、AIの知能が人間の知能を上回る「シンギュラリティー」の結果として現れるもの。「マトリックス」は、「シンギュラリティー」という言葉が生まれる10年以上前に、それが起きた世界を描いています。
いま、イーロン・マスクが「AIは危険だ。人類を破滅させる」とさかんに警告を発していますが、ある意味「マトリックス」は20年以上前にそれを行っていたんだと。
AIが支配する世界において、人間の体力が発電エネルギーとして搾取されているという設定はなかなか衝撃的でしたが、その前段階として、人間が太陽光を遮って、AIが依存する太陽光発電をできなくしてしまったというのもまた秀逸です。グリーンエネルギーを自ら断ったのは人間だったという斜め上すぎる設定。そう言えば「マトリックス」の中で描かれる年代は、2199年頃となっていましたね。
●当時はなかなか理解できなかった物語世界を、今の私たちは深く理解できる…そのワケは?
そして「マトリックス」にはユニークな登場人物がたくさん登場しますが、個人的に、出てきた瞬間「誰だこれ?」ってもの凄く印象に残っているのが「アーキテクト」です。彼はマトリックスを動かしているシステム、言うなれば「マトリックスOS」の設計エンジニアです。今なら、Mac OSを創ったスティーブ・ジョブズや、Windows OSを創ったビル・ゲイツみたいな存在に例えれば分かりやすいでしょう。
OSは、長年動かしていると、いろいろなバグや不具合が出てくるので、時々アップデートが行われます。アップデートの後は再起動することが必要。この概念は、コンピューターに詳しくない人にはあまり理解されていませんでしたが、今では私たちも、よくPCやスマホを再起動しますよね。OSをアップデートした後や、アプリが動かなくなったときは、まず再起動。
ネオやトリニティーは、OSに不正アクセスしてくる「侵入者」です。ネオやトリニティーがOSの破壊を目論む「コンピューターウィルス」だとしたら、スミスおよびエージェントは、それを阻む「アンチウィルスソフト」だと考えれば、両者の関係性が理解できます。
もの凄くシンプルに例えてみましょう。ふだん、仕事で使っているノートPCがウィルスに感染した。アンチウィルスソフトをインストールしてウィルスを駆除し、OSを最新のバージョンにアップデートして再起動する。その一連のプロセスが、「マトリックス」シリーズ3部作に描かれている内容と、本質的に同じなわけです。だから私たちは、今「マトリックス」を見直すと、するすると話が腹に落ちていくことに気づきます。当時はなかなか理解できなかった物語世界を、ノートPCやスマホの再起動に置きかえて説明することで。
マトリックスの世界には、人間界から送られてきたネオやトリニティーらと、物理的実体のないプログラムがあります。だけど、どちらも人間の姿をしています。
アーキテクトやメロビンジアンといったプログラムは、それぞれの習性を活かした擬人化が行われていました。ルールに厳格なアーキテクトは白衣の科学者、遊興的なメロビンジアンはブラックのスーツにワイングラス、バックドアのカギを開けるキー・メイカーは、町の合鍵屋さん。
これに対して、ネオやトリニティーやモーフィアスは「アバター」であると説明できます。人間のネオは、メッシュ地の穴だらけのシャツを着ていますが、マトリックス世界の中では、いつも長い学ランのようなマントを着ているのも、自分のアバターに好みの衣装をまとわせているのだと。
こんな具合に、20年以上前に、今のネット世界では当たり前になっている概念や要素を、積極果敢に物語世界の構築にフル活用している。しかし、あんまりそこに拘泥しちゃうとネット詳しくない人たちがついて行けないから、バレット・タイムとかワイヤーアクションとかVFXをモリモリに盛り込んで、「頭で理解できない人は、目と耳で楽しんでね」って感じでプレゼンテーションしているのが「マトリックス」3部作なわけです。ホント良くできていると思います。そして、20年経って、時代がようやく「マトリックス」に追いついたんだな、と感心しました。
そして最後に、新作「マトリックス レザレクションズ」を鑑賞した後でつけ加えたいポイントは、シリーズを通じて全くブレていない、ネオとトリニティーのお互いへの感情です。
「目と耳で楽しむ人」がいる。「目と耳と頭で楽しむ人」がいる。「目と耳と頭と心で楽しむ人」がいる。それが、「マトリックス」という映画の懐の深さです。