「セルフオマージュの末路」マトリックス レザレクションズ 秋桜さんの映画レビュー(感想・評価)
セルフオマージュの末路
マトリックスシリーズ3部作が2003年に完結して実に18年ぶりの新作続編。
余程伝え残したことがあったのか斬新なストーリーを思いついたのか、これほどの年月を経て4作品目を製作するのは一体何事かと思い、ワクワクしながら蓋を開けてみれば何てことはない非常に残念な出来だった・・・。
おおまかなストーリーは、またもやネオとトリニティがマシンに捕らわれ「電池」となり、マトリックスを見せられ生かされているが、人類が二人を救出して、今度はネオだけでなくトリニティも覚醒してダブル救世主になったぜ!という流れ。
もう1作目のような「実は現実と思っていたものが仮想現実で実際の人類はただマシンの電池でしかないんだぜ!」という衝撃のギミックは使えないので、3部作からのストーリーを上手く継承しつつ、「今度はそんな新しい展開を用意するのか!」という視聴者の期待に応えるべきだったのに、やった事と言えば往年のキャストで1作目の展開をなぞっただけ。
こんな既視感に一体なんの意味があるというのか。
セルフオマージュというかセルフパクリを大々的に敢行しているので、製作者にも後ろめたさや恥ずかしさがあったのか、必死に「これはループ話なんだよ!だからあえて(パクリを)やってるんだよ!」と言い訳がましく1作目の映像を何度も何度もインサートするのは見ていて哀れとすら思った。
アクションにも目新しさはなく、1作目でやったことを随所で繰り返すだけであり、このアクションパートをねじ込みたいが故にピンチに陥る流れになっているんだろうなぁ(そして100%切り抜ける)というメタ的な視点で鑑賞しつつ、予定調和シーンがさっさと終わることを願いながら待っていた。
また、仮想現実マトリックスと現実世界の境界や行き来を必要以上に分かりづらくしていて、ここはもっと見やすくシンプルに出来るはずだし、とりあえず意味深で重厚で作りこんだ世界観を優先したいという作り手の欲を抑えきれなかった悪例である。もっと伝わりやすさに重きを置き、視聴者目線でものを作るべき。ただでさえ暗くて大人数が入り乱れるようなシーンや、動きが早すぎる上に目まぐるしくカットを切り替えていくシーンを多用しているわけだから、そちらを残したいのならば緩急というか静と動いうか見やすいシーンや理解しやすい構造は意図的に分けて用意しておくべきだろう。
あとは、言ってみれば「ただ助け出す」という話なだけなのに148分は長すぎる。
長すぎて非常に間延びし、しかも1作目とほとんど同じ構造というストーリーが重なって割と早い段階からエンドロールまでの視聴が苦行になっている。2時間以内に収めるべき。
良かった点としては、この作品に限らず多くの海外作品はちゃんと加齢によるカッコよさや深みを理解していて、邦画のように「若さこそ全て!」「若いって美しい!」という観点から安直にメインキャストを(大手事務所の)若者ばかりにしないところ。むしろ中高年男女こそ深みが出てカッコいいという価値観を大昔から当然のように持ち続けているので、キアヌ・リーブスやキャリー=アン・モスが実際に歳を取ったんならそれ相応にカッコよく描こうとするのは、そういう文化に乏しい日本人にとっては羨ましかった。この点で星プラス0.5個。
最後に一言で締めるならば、「なくて良かった作品」である。