「映画全体に感じる過去作との温度差」マトリックス レザレクションズ moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)
映画全体に感じる過去作との温度差
まず、結論から言うと、ファンとしては過去のキャラクターにまた会えて同窓会的なうれしさはあるのだけど、マトリックスという非常に野心的かつ、映像的にも革新的だった作品の20年ぶりの続編としては、映像表現、ストーリーの意外性といった部分に情熱があまり感じられない作品だった。
実は今作、私はオリジナルのマトリックスを超えるストーリーをラナ・ウォシャウスキーが作れるとは最初から期待していなかった。なぜならウォシャウスキーはこの20年、実験的なアクション、SF映画を何本も作りながら、結局マトリックスを超えるシリーズを作り出す事が出来ていなかったからだ。クラウドアトラスなど、個人的に好意的に捉えてはいるが、ほとんどの人は覚えていないのではないだろうか。そんな作家としてはヒットメーカーとは言えない彼女がマトリックスの続編を作るからと言って、急に新しい世界観を提示できるはずもないだろう。
とにかく、ストーリーにおいて、欠陥があっても、正直「リローデッド」ぐらいのアクション映画としての今までにない映像体験をさせてくれるのであれば、それで満足、というのが私のこの映画への期待だった。
残念ながら、この作品、ストーリーよりも何よりも、一番弱いのがそのアクションシーンなのだ。ジョンウィックのアクションの方が正直撮影技術的に上だと思う。まず、見られた方ならお気づきだと思うが、アクションの全体像を捉えるような「かっこいい引きの絵」(それこそが旧マトリックスを特別なものにしていたと思う)、が極端に少なく、映画館の大画面に不似合いな「寄り」のショットが多すぎる。胸から上のクローズアップばかりで、暗い画面シーンでは、アクション中何が起こっているのよくかわからない場面さえある。まるで予算が無いテレビドラマシリーズのアクションでも見ているかのようだった。過去作では、高速道路をわざわざ建ててカーチェイスシーンまで撮ってしまったように、絵にスケール感があったが、今作は一つ一つのアクションの見せ方が小さすぎる。中盤のアクションシーンでは「スタジオにセットを組みました」感が丸出しになってしまっていた。そして、せっかくのマトリックスなのにバレットタイム撮影も無し。バレットタイムっぽい短いシーンをCGでごまかしてやっている程度だ。
私はウォシャウスキー姉妹のそれぞれのマトリックス過去作での制作における役割分担がどのようなものかは全く知らないのだが、今作はリリー・ウォシャウスキーが抜け、ラナが一人で撮っている。そのラナがSFには興味があっても、アクション映画に興味が無い人なのは明らかだろう。
一作目の時は男性だったラナ監督が性転換により女性になり、色々な価値感が変わっている事が伺える要素がこの映画では随所にある。例えば、機械と人間の共存、女性キャラクターの活躍、温かみのあるライティング等。様々な場面で、対立よりも融和が掲げられている(ネオとエージェントの関係においてさえも!)。一番驚いたのが乗組員の扱い。なんとチームの誰も死なないのだ・・ドラマ作りの観点から考えると、アクション映画の主要な登場人物が誰も死なないというのは極めて異例なのではないだろうか。時を経て、まるくなったというかなんというか・・これらの例を見ればわかる通り、彼女が過去のマトリックスのようなアクションパートに関心は無く、この作品の中で語りたかったのは、あくまでネオとトリニティのラブストーリーであり、人間ドラマの部分なのだとわかるだろう。それが成功しているかどうかと言われれば・・まあ普通には見れたが、やっぱりアクションが物足りないよね、という結論になってしまう。
最初の「実はマトリックスはワーナーブラザーズのゲーム」みたいなメタな設定はいかにもマトリックスという感じで面白いアイデアだったし、正直あのまま2時間マトリックスの中のネオやトリニティ、オリジナルのモーフィアスの日常で、ほとんど何も起こらず終わるみたいな同窓会的な番外編のコメデイでも良かったかもしれない笑