「邦題は失敗。原題のままでいい。」ドリームプラン いなかびとさんの映画レビュー(感想・評価)
邦題は失敗。原題のままでいい。
ウィル・スミスが製作も兼ねて、アカデミー賞狙いで主演した映画だ。
ウィリアムズ姉妹のテニス界での大成はご存知の通りで、その父親に目をつけるとは良い勘を持っている。テニス界での成功を夢みて、姉妹誕生前にドリームブランを作成したとあるが、劇中では一切明らかにされない。描かれるのは、自分の信念を曲げない頑固一徹な父親である。原題の「キング リチャード」の方が良い。シェイクスピアの「リア王」にならったものだ。
「リア王」は悲劇に終わるが、こちらは成功物語である。苦難の時代を如何に描くかで、アカデミー賞受賞が決まると思う。ここのところがちょっと弱い。台所で妻に心の内を見透かされる会話など強気の面だけてなく、弱いところをもっと見せれば、受賞も可能だと感じた。
喧嘩して撲られている自分を見捨てた実の父親ようにだけにはなるまいと、対戦相手の卑劣な手段により無惨に敗れていく娘を見守る姿は感動ものである。
アメリカのスポーツビジネスは、日本と違って桁が一桁或いは二桁多い。テニスアカデミーで姉妹が無料で食事をしているのを叱る場面など、こういう教育をしておかないと40歳を過ぎても現役で活躍できないだろう。立派である。
最後に写しだされる実際の写真は余分である。カットした方がいい。ヴィーナス、セリーナ姉妹はテニス史に名を刻んだが、その他の姉妹はどうなったのだろう。普通に暮らしていれば何の問題もないが、犯罪者にでもなっていたら、アメリカンドリームは崩壊だ。
余談だが、音楽史上最高の天才とされるモーツァルトの父親を主人公に誰か映画にでもしてくれないかな。モーツァルト自身の映画には、「アマデウス」という決定的な名作がある。
息子の天才を信じて疑わなかった父と造反してゆくモーツァルト。二人とも失意の生涯を終えることとなる。この映画のように成功物語ではないが、深みのある映画になると思う。全編モーツァルトの音楽を使って、大当たりは期待できないけれど。