「姉妹の笑顔からは想像できない両親の覚悟。本作は、実話のなせる技が光る。」ドリームプラン 山田晶子さんの映画レビュー(感想・評価)
姉妹の笑顔からは想像できない両親の覚悟。本作は、実話のなせる技が光る。
テニス界のビーナスとセリーナと聞けば、キュートな髪型で可愛らしいテニスウェアー、美しい筋肉、全身全霊のパワフルな動きが目に浮かぶ。テニスコートに現れる姿は女王という名に相応しい存在感があり、プレー中のビーナスの「虎のような眼差し」は、内に秘めた闘争心すら感じた。
2人がテレビで活躍していた頃から、父親が凄いという情報を聞いたことはあったが、実際はどうなのかわからないまま時間が過ぎていた。個人的には、テニスコートの観客席で家族が応援しているという印象が強かった。
そして今、2人の生い立ちを映画で見ることができる。しかもアカデミー賞でも盛り上がっている。【作品賞】、【主演男優賞】(父親役ウィル・スミス)、【助演女優賞】(母親役アーンジャニュー・エリス)、【歌曲賞】(ビヨンセ)、【編集賞】、【脚本賞】と堂々6部門ノミネート。もちろん賞の話抜きでも文句なしの傑作だ。
独特な手法でビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育てた父親に関する伝記のようなストーリーかと想像していたが、蓋を開けてみると「家族の物語」が芯にあった。そして人種差別などの深い問題も関わっていた。
父親のブレない思想や教育、家族と自分を守る交渉術は本作の中で具体的に示され、作り込まれたドキュメンタリーの如くリアルに心に響いてくる。父親が中心であるのは間違いないが、家族のチームワークなしでは成立しなかったドリームだということを、細かな描写と台詞で明らかにしている。144分という上映時間であるが、好奇心と探究心が途切れない映画で、体感時間は短く、一言で言えば無駄がない。
親やコーチとの特訓シーンは抑え目にして、人間関係や心理描写で鑑賞者を魅了する。そして試合シーンについてはスポーツ感を全面に感じられるよう、様々なカメラワークで臨場感を出しているところは圧倒された。
日本での題名が『ドリームプラン』となっているように、計画がどのように進んでいくのか、山あり谷ありなのかなど見所は多く、テニスに興味がない方にも楽しめるはず。
親によって子は変わる、子供によって親も変わる、夫婦の関係で家族(周り)も変わる、など様々な視点で鑑賞すると、より評価が上がるという深さを併せ持つミラクルな映画。