劇場公開日 2021年8月13日

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モロッコ、彼女たちの朝のレビュー・感想・評価

全45件中、21~40件目を表示

5.0不運に見舞われた過去に対する無慈悲が拭いされない世界で慎ましやかに暮らす女性の生き様に寄り添う力強い作品

2021年9月11日
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鑑賞方法:映画館

カサブランカの街を仕事と宿を求めて彷徨い歩く身重のサミア。元美容師だが臨月のお腹を抱えて住む家もない身ではどこを訪ねても門前払い。パン屋を営むアブラもサミアを追い払うが一人娘のワルダにせがまれたこともあって仕方なく家に招き入れる。天真爛漫な少女のワルダはすぐにサミアに懐くがアブラはサミアに心を開こうとせずぎこちない共同生活を続けていたある日、せめてもの恩返しにとサミアが作ったモロッコ伝統のパンケーキ、ルジザを店で出してみたところ常連客の間で評判になり慎ましい生活にささやかな光が差し込むが・・・。

舞台となっているのはほぼアブラの家の中だけ。ポスタービジュアルに滲んでいるような明るさもほとんど映らない。直接描かれないものの彼女達の周りにあるのはイスラム教世界に漂う無慈悲。シングルマザーのアブラもこれから未婚の母になろうとするサミアもそれがどうにもならないことを知っているからこそ子供達が自分よりも幸福になることを何よりも願っている。それゆえにサミアは頑なにある決意にしがみつく様がどうしようになく痛々しいです。マリヤム・トゥザニ監督は家族で未婚の妊婦の世話をした思い出を元に本作を撮ったとのこと。誰にも語れない過去を持つサミアに無邪気に絡みこれから生まれてくる赤ちゃんに興味津々のワルダの姿は当時の監督自身の気持ちがしっかり滲んでいるように見えました。凄惨な描写もない地味なドラマですがそこに漂う不穏な空気がしっかりと捉えられた力強い作品です。

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よね

4.5子供に名前を付けることの重みと覚悟

2021年9月11日
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鑑賞方法:映画館

パン屋を営み女手一人で娘を育てるアブラは、身重で行く当てのないサミアに一夜の寝床を貸す。
色々葛藤もありながら、そこから物語は展開します。
最後は、アブラもサミアも良い方向に展開する(ことを予感させる)。
映画を見る人も、何が大切なのかを教えられる。

登場人物はほぼ4人。セリフも極めて少ない。西洋の古典的絵画のような静かで落ち着いた映像の中で物語は展開していきます。

印象的なのは、アブラの娘ワルダの子供らしい可愛らしさと、もうひとつ・・・
「子供に名前を付けることの重みと覚悟」です。
上質な映画でした。

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センノカゼ

4.0二人の女性が手を差し伸べ合うヒューマンドラマ

2021年9月9日
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 仏教の最古の経典のひとつとされる「ブッダのことば スッタニパータ」(中村元訳、岩波文庫)の中に「子のある者は子について憂い、また牛のある者は牛について憂う。実に人間の憂いは執著するもとのものである。執著するもとのもののない人は、憂うることがない」と書かれている。
 本作品の臨月に近い妊婦サミアは、そのことを本能的に知っていたのだろう。名前をつければ即ち自分の子となり、乳をあげれば即ち母となる。そして離れ難い愛著が生じる。産んですぐに養子に出せば、愛著が生じる前に別離ができる。産んだ子の存在を忘れ、産んだこと自体も忘れ去れば、安楽な日々が待っているだろう。
 一方、サミアを泊めてくれているアブラは、事故で亡くなった夫の面影を忘れることができず、悲しみから抜け出せずにいる。サミアはそのことを敏感に感じ取り、夫の楽しかった思い出の歌を無理やりアブラに聞かせ、夫の悲しい思い出を楽しい思い出に塗り替えることで、愛著から脱して未来に向かわせようとする。
 しかし死んだ夫の思い出と生れたばかりの赤ん坊に対する愛著は別のものである。無垢で弱くて親だけが頼りの赤ん坊は、母親にとって狂おしいほど愛しい存在だ。抱えて乳をあげれば生命の絆に至福の喜びを感じる。そうなると、もう離れることなどできない。サミアは母の本能を意思の力で押さえつけることができると信じていたようだ。
 アブラはサミアよりも年上で、世の中を知っている。赤ん坊を人買いに売れば、数年後には性的なおもちゃにされて商売道具になることが目に見えている。そんなことは絶対に駄目だと、今度はアブラがサミアを諭す。アブラはもともと、妊婦が街角で顫えているのを放っておけない温かい心の持ち主なのだ。

 本作品は二人の女性が互いの苦しみを理解し合い、手を差し伸べ合うヒューマンドラマである。モロッコ映画を観た記憶があまりないが、本作品は人間愛に満ちた優しい映画だと思う。
 現実では、産んだばかりの子供を母親がゴミ箱に捨てたという事件は世界中で起きている。育てるのが経済的に無理か、男と過ごすのに赤ん坊は邪魔というのが理由の大半だ。名前をつけたり乳をあげたりする前に捨てているのだろう。
 カサブランカの街の様子は、ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの映画とは随分違って見えた。北京の胡同みたいに路地が入り組んでいる。藤田ニコルによく似た子役が可愛い。小麦粉の件は解決を見なかったがどうなったのだろうか。

 原題は「Adam」である。サミアは最初から赤ん坊を人買いに売り渡す気はなかったようだ。

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耶馬英彦

3.5主演の二人の表情がとにかく素晴らしい。モロッコの暮らしや文化を知る...

2021年9月9日
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主演の二人の表情がとにかく素晴らしい。モロッコの暮らしや文化を知ることの出来るヒューマンドラマ。

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Yoshi K

4.0決意と絆

2021年9月7日
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泣ける

楽しい

幸せ

過去に旦那を亡くし、心を閉ざしながら生きるアブラ。そんな彼女のもとに、妊婦だが夫のいないサミアが導かれ、お互いに抱える問題に向き合っていく物語。

内なる優しさはひしひしと感じるものの、それを表現せず、サミアを心から受け入れている様子は無いアブラ。

そんな彼女に戸惑いつつ、妊婦であっても何か役にたとうと動き出すサミア。

そんな2人が少しずつ、しかし確実に心を通わせていく様が美しい。

モロッコでの独り身の女性の生きづらさや産まれてくる子どものこれからの話等、色々と考えさせられる。

それでも、本作でワタクシが深く惚れ込んだ要素は、やっぱりアブラ!

表情1つで強さと寂しさの相反する人格を表現する様は見事!!かと思えば、スリマニの思いに戸惑ったりする様はとても可愛らしい。

イメージに反して比較的あっさりとサミアを家に入れたのも、哀しい経験や独りの女性の生き辛さを知ってたからなのかな。

後半はサミアの物語。自身の状況から、産まれてくる子どもをどうするか・・・。辛い現実に直面しつつも、彼女が下した決断は・・・!?

サミアの物語も良かったけど、個人的にはアブラ1本に焦点を当てたストーリーも見てみたかったかな。妊婦を助けることで心を取り戻した女性が、新たな幸せを見つけるとか・・・ベタですが。

あと、最初は絶対にヤバいやつだと思ったスリマニが、見れば見るほど愛らしい(笑)

序盤のサミアには、立場わかってるの!?・・・とツッコミを入れてしまったが、登場人物皆の素晴らしい演技に魅了された、思いがけない名作だった。

BGMも殆どない静かな中、表情で客席の感受性を揺さぶる業の数々に脱帽です。

ただ、ひとつだけ分からなかったのは、家の前で泥棒だどうだとガチ喧嘩してるのを皆で仲良く並んで笑って見てたが・・・あれ笑うとこなの(笑)??

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MAR

4.5ムスリム圏の女達よ、手をつないで、と思った。

2021年9月4日
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夫を亡くしたシングルマザーと父のいない子を産もうとする出産間近の女性、両方とも生き難いモロッコで出会ってしまう。シングルマザーの見捨てておけない人間的な優しさと、しっかり自分の足で立ち自分でどうにかしようと挑む妊婦の両方に共感してしまった。
頑なに生きるシングルマザーと(多分)生き方に柔軟な妊婦が共に生活していく中で互いに影響し合っていく。
出産した後は里子に出すと言う、柔軟だけど社会にあらがいきれない妊婦に、頑なで柔軟性がないように見えたシングルマザーが、後悔する別れだけはするなと説得する。最後はハッキリとした結論が描かれないまま終わる。

ムスリム圏ではまだまだ社会の締め付けがきついのだろう。
遠い昔見たムスリム圏の映画には、男が買春はするのに、生活手段がなく売春しか出来ない女を足蹴にする男が描かれていた。この矛盾を何とも思わない男達が信じられない。
先日ネットでアルジャジーラTVを見ていたら、アフガニスタンの放送関係の女性が3人殺害されたニュースを見つけた。

映画のモロッコはまだましな様子だったが、女性達が手をつなぎ少しずつ生きやすい社会を作って欲しいと強く思った。

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たこ姫

5.0「フェルメール」の絵画のように美しく繊細で、力強い作品

2021年8月30日
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本作、世界的潮流になりつつある、女性監督による「社会×女性」をテーマにした作品です。

僕が最近鑑賞した作品では「プロミシング・ヤング・ウーマン」「17歳の瞳に映る世界」がそれにあたるかと思いますが、女性視点の作品は「グサリ」と突き刺さります。

さて本作、まず目を惹くのは「フェルメール」の絵画のように美しい映像。さらに、自然な音や光の使い方も素晴らしかったです。

一方、抑え気味なビジュアルに反して、ストーリーの背景が重たい。

「婚前の性交渉や中絶が違法の国」モロッコで、未婚の女性が妊娠。臨月の中、ホームレスのように街を彷徨うところから物語がスタートします。

婚外子として生を受けた子どもは出生届すら出すこともできないため、この世の中に「社会に存在していない子ども」となってしまう。

夫の死に向き合うことができず感情を抑えながら生活をするパン屋のアブラと、出産しても自分で育てることができない現実の厳しさを抱えるけど直視できない主人公サミア。
アブラの娘の可愛さや、パン屋さんが繁盛する明るい要素との対比で、2人の繊細な心の動きが手に取るようにわかります。

そして出産。
授乳、名付けのシーンのあたりでは、切なくて、涙でスクリーンが見えませんでした。

女性だけがすべて背負い、それでも生き抜いていく。
とても繊細で力強い作品でした。

日本でも、女性監督による同様のテーマ作品を観てみたいです。

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まさ

3.5母性には服従するしかないですね

2021年8月29日
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私にとって、女性は恐くて(色々な意味がありますが、端的に言えばカミさんが世界で一番怖い…幸いこのサイトのことをカミさんは知りません)神秘的な存在です。

この作品、イスラム教の教義とか、人権、特に女性の人権(一部のイスラム原理主義者の人にとっては、欧米文化からの余計なお世話であり、横やりを入れてくれるな、ということかもしれない)との絡みとか、についてそれなりに勉強してないと受け止め方が難しい(少なくとも私には整理しきれませんでした)。

ただひとつ。

あの授乳シーンは、男には絶対実感できない〝至福〟がありました。
それまでの経緯やこれからの困難などすべてを考え合わせると、不幸の裏返しの至福かもしれませんが、それでも。

あのシーンに漂う神々しさはバチカンのサン・ピエトロ大聖堂のピエタ(言わずもがなのミケランジェロ)のようでもあり、母性には服従するしかないことをあらためて実感(これは男にしか実感できない❗️)しました。

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グレシャムの法則

4.0芯を強く持たないと生きのびられない女たち

2021年8月28日
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 期待以上だった。ツンデレ女性がなぜツンデレなのか、甘くない世界であることがよくわかった。一方で、人と人との距離がいろんな意味で近くてごみごみしているのになぜか魅力的なカサブランカの街の風景に目を奪われた。
 未婚の妊婦サミアは、手に職もあるのになぜシングルマザーとして生きる決心をしないのだ、なぜ生まれてすぐ我が子を施設に入れようとしているのか、なぜ何食わぬ顔で実家に戻って普通に結婚しようとしているのか、そしてなぜ産み落とした直後の我が子に頑として乳をあげようとしないのか、、、こんな風な常識的な「なぜ」が渦巻いた。それはひとえに私が「事実」を知らない無知ゆえだった。かの国では、未婚女性が子どもを産むことのタブーは想像を絶し、必ずや社会的孤立を生み、主観的に愛したとしても我が子は必ず不幸になるに違い無い、という事実。いくら芯が強くても、社会慣習、社会意識などの環境を変えるほどの団結は遠い。何しろ、女性同士でも立場が違えば露骨に非難しあってしまうのが現実だから。
 鑑賞後時間が経ってもじわじわする映画には共通点があると思う。映像の記憶が、空気の記憶、匂いの記憶、温度の記憶、肌感触の記憶につながっていること。印象的なセリフの裏にあるたくさんの意味を反芻してみたくなること。そして、手持ちカメラで捕らえられたアングル、距離、手ブレを通して、もう一人の出演者としての作り手の視点を終始感じられること。
 印象に残ったシーン:パン生地をこねる手のアップ、丸いお腹の皮膚のざらつき、フェルメールの構図を思わせる光のあるパン工房、あの彫りの深い顔に施される気合いの内瞼アイライン、、、、いやキリがない。

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Kumiko21

3.5女たちの息づかい、まなざし

2021年8月25日
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モロッコの美しい街並みの中、逆境にあっても明るく前向きな主人公、女性同士が助け合い、ともに困難を乗り越える話…

を、想像していたら、まったく予想を裏切られた。良い意味で。

暗い室内のシーンが中心。BGMはなく、主人公の息づかい、声にならない嗚咽。深く、厳しい眼差し。頑なな心が溶け出した、かすかな微笑み。

そんなシーンが丁寧に描かれる。

分かりやすいストーリー展開を期待したのが恥ずかしくなる。女たちが背負う過去もほとんど説明はされない。ひたすらに彼女たちの表情を追う。

ラストシーンは何を意図したものか。彼女の最後の表情から見る人それぞれが見いだすのだと思う。

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のらり

5.0すいません、こんなレビュー

2021年8月23日
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最初から最後迄、女性の顔のアップ。登場人物も二人の女性と女の子、ほぼ。まさしく、マラケシュのお国のお話ですね。

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ホモサピエンス

4.0パワーを貰えました

2021年8月22日
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鑑賞方法:映画館

眼差しが強い。
その力に吸い込まれるように魅入ってしまいました。

笑顔がなかった二人が、
徐々に心を開き、心の隙間を、お互い少しだけ補い合い、
だんだんと笑顔を見せるようになっていく様子に、
こちらも、ホッとしました。

娘の笑顔が終始キュートで可愛かった。
いい子ですー。

そして、女の権利が想像以上に確立されていない異国の地の女性たちに
負けるなー!とエールを贈りたくなりました。
また、私自身も強く生きる二人にパワーを貰えました。

さらに、モロッコの風習、食べ物、服装、とても新鮮で、興味深く楽しめました。

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hkr21

3.5宗教やジェンダー問題の背景があっても「思いやり」の基盤はどの国も同じなのかもしれない...

2021年8月22日
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鑑賞方法:試写会

今作は第92回アカデミー賞のノミネート候補に挙がった作品。他国の多種な映画が日本に輸入されてきているものの、商業映画として劇場公開されるモロッコ映画は今回が初めて。

モロッコに住む人々のほとんどは、イスラム教徒。イスラム教徒では婚前交渉が禁止されており、未婚の妊婦という時点で、誰も関わりたがらない。

普通に考えても未婚の妊婦サミアが、ひとりさまよっているとなれば、ただでさえワケあり感が漂うものの、宗教上の問題が関わっていれば、なおさらだ。

モロッコの場合は、法律、つまり国のベース自体にイスラム教があるだけに、感情だけでは、なかなか揺れ動かない。

ジェンダー・ギャップ指数も143位(2020年)と、女性がひとりで子供を抱えて生きていく環境としては、決して良いとは言えない。

そんなモロッコという国を背景に、ひとりのシングルマザー、アブラと出会い、物語が展開されていく。

アブラは、夫を早くに亡くして、パン屋を経営しながら、女手ひとつで娘ワルダを育ててきた。境遇は違うが、少なからず女性がひとりで生きていく厳しさを常に感じているものの、宗教上や自分自身に抵抗がある。そこに風穴を開けるのがワルダ(ちょっと藤田ニコルに似てる)。

ワルダは無邪気で、モロッコという国にある概念をまだ知らない。だからこそ純粋そのものな存在であるのだ。

モロッコという国も時代を経て、少しは開放的になりつつあって、サミアはそんな世代で、何より若いということもあって、差別されながら貧困の中だったとしても、何としてでも子供を育てるという母性意識よりも、わからないように産んで、普通の生活に戻って、同年代の女性と同じようにオシャレして、何ごともなかったように結婚したいと思っている。

合法的に中絶もできない。両親に打ち明けてしまうと、両親まで差別を受けかねない。そんな国の風潮や圧力によって、サミアは両親にも言えないまま、お腹が目立ってきたから家を出てきたという状況であり、サミアにとってお腹の子は、厄介な物でしかなかったのだ。

サミアもアブラも、心に壁があって、逆にそこが心地よい部分もあったりするのかもしれないが、一方で相手に世話を焼いてしまう一面もあったりする。そこにワルダの無邪気さが加わることで、ある種の擬似家族の形態へと変わっていく。

そのグラデーションの部分を、映画的にドラマチックに描くというよりも、ごく自然体で淡々と描かれる。変に慣れ合わない独特の環境だからこその心地よさという面では、真逆の結末に向かっていくが『17歳の瞳に映る世界』に近いものも感じた。

人間というのは、幼い頃は、どの国もそんなに変わらないと思う。生活環境だったり、親の価値観の押し付け、社会に染まった大人の汚さを知っていくことで、知らないうちに、自分も気づけばそんな大人になってしまっている。

それを常に思いおこさせるのは、子供という存在であって、人間は子供を見ていると常に自分のあり方を思い直させる。動物的な繁殖機能によるものという一方で、心の部分でも子供という存在は人間には、必要な存在なのだ。だからこそ全く違ったジャンル『海辺の家族たち』『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』などを観てもわかるように、子供が希望の象徴のように描かれることが多いのだ。

監督であるマリヤム・トゥザニが、家族で助けた未婚の妊婦との体験談が今作のベースとなっているのだが、監督もまたモロッコ出身である。この映画と変わらない環境にありながら、未婚の妊婦を助けたことは、監督の家族は概念に捕らわれず、人間の繋がりを大切にしていたということが感じられる。

そういった環境で育った監督が、映画を通してモロッコの人々だけではなく、例えばヒンドゥー教の多いインドだったり、保守的なキリスト教信者の多いアメリカの地域だったりといった、宗教色が人々の概念に影響を強くもたらしている国に対しても、何かしらの刺激になって、考えるきっかけをあたえてくれる。

私たちは、どうしても国という大きなくくりで、人間性を判断してしまいがちだが、人間性のベースにあるものは、どこの国も変わらないのだということを改めて考えさせられる機会を与えてくれたような作品だ。

モロッコは、1日3食パンを食べるほどのパン食文化の国である。日本のようにふっくらとしたパンもあるが、平べったいチヂミのようなパンが主流だったり、麺のようなルジザといわれるパンもあったりと、モロッコの食文化を知ることができる。

入口は食文化でも景色の美しさ、または女性の地位でも何でも、様々な観点から、モロッコという国に目を向けるきっかけに、今作がなるのだとしたら、監督も本望ではないだろうか。

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バフィー吉川(Buffys Movie)

4.0一人きりでは作れない明日がある。

2021年8月21日
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イスラム社会で生きるシングル女性達の物語。

「女性に権利はない。」とは登場人物のセリフ。女性蔑視などで時々ニュースになる我が国ではあまり聞いたことがないセリフ。しかし、イスラム社会では当たり前に話されるんですね。宗教的な理由でしょうから嘆いてもしかたないのかもですが(詳しくないので想定です)。

だからと言って、社会にシングルマザーが生まれる状況は変わらないですよね。イスラム社会では本当に辛いでしょうね。女性にとっては厳しい文化。肩肘や気を張れるものは全てパンパンに張って生きていかないと舐められてしまう男性上位の世界なんでしょうね。

明日も生きる、と言うのは大事なことですが、いつしか生きることが全てになり、人間本来の悦びを忘れてしまいがちになるんでしょう、、、自分一人の世界では。
人は一人では生きていけない、とはよく聞きますが心豊かに生きていくって面でもそうかもしれませんね。心豊かになれば、今まで願うことすらしなかった明日を見ることが可能になるかもしれません。

本作の2人の物語はイスラム社会で生きる女性達はじめ、日々踏ん張って生きる人々にちょっとした勇気をくれるかもしれません。
アブラ、ライラ2人の日々が糧になり、共に明日が明るいものであってほしいと願いたくなる作品です。

秀作です。

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バリカタ

4.0ラストこそ”モロッコ、彼女たちの朝”

2021年8月20日
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本を読むような映画。映像やセリフだけでなく、その行間を感じてこそ興味深く感じる。
起伏が少なく単純明快な娯楽作品ではないが、色々考えさせられ退屈ではなかった。

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Oyster Boy

4.0カサブランカから産声が聞こえる。

2021年8月19日
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人生初のモロッコ映画。土壁とレンガ。ちょっとスモーキーな雰囲気と入り組んだ迷路のような街並み。あまり目にする機会のないモロッコの景色とそこで暮らす人々の日常が新鮮でした。

最大都市カサブランカで出会う2人の女性に光をあてた良作。大きなお腹で仕事を探しながら街を彷徨うサミア。一人娘ワルダを育てながらパン屋を営む未亡人アブラ。男尊女卑の思想が今なお根強いイスラム教では未婚のまま妊娠すればたちまち居場所を失ってしまう。あるきっかけで渋々サミアを居候させることになったアブラ。

強く美しく実直で神経質な女性アブラ。心を閉ざしているかのようにも見えるが彼女もまた深い悲しみを胸に秘めている。女性というだけで公然と差別される社会。共鳴し合う2人。それは母性がそうさせたのかもしれない。お祭りのシーンは唯一ほっこりできた。なによりワルダがずっと無邪気な天使のようでかわいい。

産まれたばかりの我が子の顔すらまともに見ることができない後ろめたさ。不甲斐なさ。一瞬ヒヤッとする場面があって背筋が凍った。そして観る側に委ねられたその後の物語。

「子供を渡してはいけない。物のように扱われる」これは紛れもなく同じ時代を生きる女性から発せられた言葉。その現実を遠く日本でしっかり受け止めたいと思った。

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はるたろう

2.5息苦しい

2021年8月18日
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ちょっとよく分かりませんでした。

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かん

3.5画面が絵画的。ストーリーも良かった。

2021年8月17日
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日本で初めて劇場公開されるモロッコ映画。長編デビュー作となるマリヤム・トゥザニ監督の実体験に基づいている作品だそうです。
ドキュメント調で絵画のように美しい照明、子役も含めて出演者たちの自然な演技、最後まで映画の中に入り込んだような作品。
女性監督特有のきめ細かい仕草や情景があり全体的に飽きる事はなく最後までじっくり見れる人間ドラマでした。
小さなパン屋を営む一人娘を養う女主人アブラと仕事を求めて玄関に尋ねて来た未婚の妊婦サミア。
カサブランカの街並みや路地裏、日常の食べ物、そして店先のパン作り。未婚の妊婦の微妙な偏見や将来の不安等々すべてがリアル感がありました。
派手さはないし衝撃的なテロや犯罪事件も起きないストーリーですが微妙な顔の表情や音楽、雑多な路地の音や光で表現する手法は絵画的で芸術的な美しさがあります。
モロッコ地方に興味のある方はぜひご覧ください。女性には特にお勧めします。

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Yoji

3.5光の美しさ

2021年8月17日
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夫を事故で亡くし苦労をしてきた女性が、行くあてのない妊婦を見過ごせず手を差し伸べる姿が眩しい。
まるでフェルメールの絵画や、キリスト教・ユダヤ教の宗教画にも通じるような色や構図があちこちに。
パンを焼いたり、身体を洗ったり、赤ん坊へ授乳したりといったシーンで、空気に混じる僅かな埃すらカメラで捉えた「光」の美しさが魅力でした。

背景にはイスラム文化圏であってもフェミニズムが台頭し、一夫多妻制が制限され女性の権利が認められてきたモロッコながら。
最大の商業都市カサブランカでさえ、未だ旧市街に暮らす人々には女性への偏見と差別が根強く残り、また宗教をベースとした法で未婚女性の妊娠や中絶が認められていない現実があるからで。

そのあたりの背景を事前にある程度学んでから観ないと、日本の人には全くぴんと来ず、淡々と2人の女性の会話が続くだけの作品にしか思えないんじゃないかと。

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コージィ日本犬

3.0当てずっぽう

2021年8月16日
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単純

難しい

幸せ

パートナーの居ない妊婦と、母子家庭の母という2人の女性の交流の話。

職と住居を探し歩く未婚の妊婦サミアと、彼女に目をかけた旦那を亡くし小学生の娘を持つパン屋の女性アブラ。

神経質で一見冷たい様だけど、人情味や同情心や自身の考えがあっあり、サミアと暮らしたことにより刺激を受けたり、考え方を拡げて変化もみせたアブラの物語はとても良かったけれど…。

社会や文化やお国柄の違いがあるのはわかるけれど、家族にも妊娠や仕事や暮らしのことを偽り隠したり、目をかけて貰っていることに感謝の念がある様にはみえないサミアの、自分さえ良ければというところが透けて見える感じがどうしてもいけ好かず。アブラは加点、サミアは減点という感じ。

ドラマとしてみせたいものはわかるけれど、ヒューマンドラマ以外の何ものでもないドラマだし、もう少し人物像を何とかして欲しかった。

まあ、小麦の件と一緒でモロッコ辺りの方はそういう人間性が一般的ってことなのかねぇ…指摘もしなかったしね。

ちなみに、あらすじに記されている程の背景は本編では語られず、前情報がないと少しわかり難いかも知れない。

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Bacchus