「図書館の役割」パブリック 図書館の奇跡 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
図書館の役割
大寒波のシンシナティ。行き場のないホームレス集団が、図書館員を巻き込んで図書館に立てこもり、一晩を過ごす…。図書館好きには、設定だけでわくわくする物語だ。けれども本作は、観る前の期待を軽々と跳び越えてくれた。そうくるか!という驚きの連続。さりげなく張られた伏線が、後半でじわじわと効いてくる。怒りを知性に、もどかしさをユーモアで包み込む彼らの力強さ! 醒めない余韻が、今も生き生きと残っている。
立てこもりに至る背景、彼らがホームレスになった経緯を紐解くのかと思いきや。本作のウェイトは、内にこもった彼らが、いかに外と繋がっていくか、に置かれている。そこが素晴らしい。主人公である図書館員の過去をほじくり出し、人質事件と片付けようとする市長選立候補の検察官(クリスチャン・スレーターが、一手に悪役を引き受けていて、これがまたいい。)の圧力を跳ね返すべく、交渉役の刑事(アレックス・ボールドウィンが、公私で揺れるさまを体現)との電話やスマホ動画を手段に、外の世界に発信し、一歩踏み出していく。外界と繋がり、自分の世界を広げること。それはまさに、図書館の役割ではないだろうか。せっかく動画を入手したテレビレポーターは、思考停止のスクープ狙いで、全く戦力にならない。けれども、ニュースソースそのものから事態を読み取り、行動する人々が現れる。「読み取る力」の大切さが押さえられているところも、本作にふさわしく、心憎かった。
冒頭、館長の趣味?!で持ち込まれたホッキョクグマの剥製。一見もふもふと可愛らしいが、脚を振り上げ、くわっと歯を覗かせた顔つきには迫力がある。ラストで再び、屹立する彼の姿に出会うとき、初めとはちょっと違って見えるはずだ。彼こそ、まさに図書館にふさわしい。