「単なる良い話・・ってだけではない。」パブリック 図書館の奇跡 yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
単なる良い話・・ってだけではない。
全体的にうまくまとまってて良い話。
最後はホッコリして終われるし。
ただ、結構考えるネタは多い。
アメリカのホームレスやオピオイドなどの社会問題、そして、タイトルにもある通り、そもそも「パブリック」とは?という命題。
たしかに図書館は公共の施設だ。
仮に凍死するほどの寒さで外に居られないのであれば、狩宿として貸す、というのはおかしなことじゃない。もちろん、公共の宿泊施設(シェルター)に空きがあればそっちを使うべき、という前提はあるけど。本来「公共(パブリック)」とは、市民・国民が自由にアクセスできるからこその公共。この作品の舞台であるオハイオ州・シンシナティというアメリカの北部地域は、冬になれば相当な寒さだろう。シェルターに空きがなければ、一時的に図書館を提供する、という選択は間違っていないと思える。
しかし、自分が主人公と同じ立場ならできたかどうか。。
この線引きは難しい。じゃ、市役所や県庁なども同じ理屈で狩宿として貸しましょう、って話に拡大できるわけだし。
そして、これは図書館という「場所」だけの話じゃない。
これはうろ覚えだが、日本の図書館員は公務員だが、アメリカの図書館員(ライブラリアン)は専門職ではあるが公務員ではない。つまり、クビになる。この作品でもそういう話が出てくるし。
自分のパブリックな職域としてのライブラリアンの立場と、図書館というパブリックな場所、そして、一市民(個人)としての心情に、どう折り合いをつけていくか。。
この「葛藤」がこの映画の肝な気がする。
エミリオ・エステベス演じる主人公である図書館員は、自身の経験からの同情心もあるだろうが、ホームレスの人たちに場所を与える決断をする。この主人公、最初はすごく優柔不断で頼りない人に見える。しかし、迷いながらも人々と対話して、決断していく。館長も、パブリックな自分の役職ではなく、自身の心情に従って、このデモ(らしきもの)に加わる。
最後は面白い決着となるが、「声を上げる」という目的は果たせた。
これが、アメリカという国では重要なんだろう。白人警官による、黒人であるジョージ・フロイド氏殺害で火がついた現在実施されているデモ。この「デモ」という行為は、「俺たちはここにいる」というメッセージでもある。この感覚は日本人である自分にはピンと来ない。この肌感覚があるかどうかで、この映画の評価も変わってくるのだろう。
(元々アメリカの人に向けた映画だろうし。。)
アメリカの社会問題は根深い。
この作品のホームレスの人たちも、退役した元軍人などだが、そもそも国家が主導した戦争で戦った人たちなのに手当ても何もない。使い捨てだ。「パブリック」という言葉にしても、アメリカは様々な社会共通資本を自由(民営)化しているため、医療など含めてバブリックサービスの枠が日本と比べて圧倒的に小さい。現在のコロナの死者数に現れている。そして、オピオイドによる薬物被害。その犠牲者数は、コロナ死者数の比ではない。
アメリカの色んな背景を知ってると、この映画はより楽しめると思う。
しかし、出てる俳優さんが渋いなー。
エミリオ・エステベスも良い演技だったし、交渉人役のアレック・ボールドウィンや、悪徳検事役のクリスチャン・スレーターなど、脇を固める俳優が渋い!!なんか、この渋い俳優観てるだけで、観た甲斐があった(笑)
アメリカが舞台の映画だけど、日本の政府やメディアのコロナ対応を見るにつけ、「バブリック」という概念を考え直す、良い機会になる佳作だと思います。なので★4つ。