「エステベスらしい人物描写が温かく優しい味わいを残す」パブリック 図書館の奇跡 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
エステベスらしい人物描写が温かく優しい味わいを残す
俳優出身のバックグラウンドゆえか、エステベスは自らの監督作でいつも、一人ひとりのキャラクターの旨みを引き出し、彼らが人生を交えることで生じる化学変化にじっくりと焦点を当てる。その傾向は本作でも変わらない。語り口は急がず、焦らず。まずは寒さをしのぎたいホームレスにとって図書館がシェルター代わりと化している状況や、そもそも図書館が「知りたい」という欲求を満たすための、あらゆる人に開かれた公共の場であることを多角的に描く。では公共性とは何か。ここから自由や権利をめぐる難しい話になるかと思いきや、それらを一つのムーブメントに集約させていくのは実に巧いやり方だ。無駄に緊張や興奮を煽るのではなく、落ち着いて推移を見守れる感じ。ボールドウィンやスレーターの見せ場をもっと見たかった気もするが、ちょっと足りないくらいが本作には合っている。それによって逆に、温もりや優しさ、支え合いが際立つ名作に仕上がった。
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