「編集の技量に脱帽」耳をすませば keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)
編集の技量に脱帽
観賞後の第一印象は、編集の際立った技量です。
過去と現在の映像がアトランダムに、何の説明もコメントもなく頻繁に、そしていきなり入れ替わりますが、観客は混乱することも困惑することもなく、違和感なく自然な場面展開として受け入れられます。これは、偏に編集の腕の見事な冴えによると思います。
本作は、四半世紀前に大ヒットしたジブリのアニメ映画の原作に、主人公の中学生時代から10年後のオリジナル物語を加えて実写映画化したものですが、アニメ作品を知らなくても、随所に映像加工の工夫がなされ、十分に楽しめます。
まずナレーションやテロップはありませんが、映像だけで観客に全てを分からせるように構成されています。また寄せカットが殆どなく、主人公・月島雫の目線と視界で過去も現在も映しているため、彼女の主観描写や心象風景による映像が巡っていき、観客は自然に感情移入し没入していきます。
更に冒頭に述べましたように、過去と現在が頻繁に行き来し交錯します。拙い編集なら、観客はただ困惑し時制が混乱してしまい、気持ちがスクリーンから離れていってしまいますが、カットの割り方、シークェンスのつなぎ方が絶妙で、少しも違和感を抱きません。
全体に非常に緻密に計算してシーン立てがされている中、丘の上の街の遠景が、過去と現在それぞれに象徴的なシーンで描かれており、本作全体を通して、過去と現在をつなぐ印象的なエスタブリッシング・ショットとして効果を出していると思います。
徹底した初恋物語、ファーストラブストーリーであり、本来なら燃え上がるような熱情に心ときめくものですが、月島雫と天沢聖司の10年に及ぶ、国を隔てた遠距離恋愛が、あまりにも淡泊にクールに恭しく描かれていて、観終えた後に、私は何か生乾きの薪を燻ぶられ通した感が残りました。