「当然分かっていたが最後の演出に感動。」耳をすませば こたつたこさんの映画レビュー(感想・評価)
当然分かっていたが最後の演出に感動。
【※ネタバレ、長文です】
ジブリの映画を見た時がちょうど聖司や雫と同じ中学3年で、それから原作漫画も読んでとても好きな作品。実写化でどのようになるのか楽しみにしていた。
鑑賞後の感想としては全体的にとても良かった。ラストで2人が結ばれるのは分かっていたし(それ以外あり得ないでしょう)、現実と過去をリンクさせながら進むストーリーは切り替わりも自然で、以前の作品を知らない人にも分かりやすく、また自分も昔の記憶を辿りながら楽しむことができた。
また、様々なシーンで原作オマージュも見られ、作品への愛が感じられる温かい映画だった。
いくつか(良くも悪くも)気になった点を挙げると・・
【中学生の雫が少しわざとらしい】
アニメに寄せた結果なのか、実写としては少し演技がオーバーに感じた。しかし、これは演出の問題であって、演じた役者さんは活発で可愛らしくて良かった。現実と夢の狭間で悩む大人の雫との対比で、あえてこうしたのかもしれない。
【バロンと地球屋の主人の話がリンクしない】
地球屋の主人がバロンを入手した経緯が割愛されていて、地球屋の主人の悲恋の話がなくなっている。この話があってこそ地球屋の主人に深みが出るのだし、バロンの物語としても生きてくるのだが、映画の尺やあくまで話を聖司と雫に置くために仕方がなかったのかも知れない。
【雫の物語を最初に見せる相手が聖司】
雫から見れば大人だった聖司も夢を抱き追いかけている立場は同じ。地球屋の主人に見せてこそ、雫は今の自分に足りないものは何かを知り、改めて夢を目指す決意をする重要なファクター。聖司から夢を目指して頑張れと言われるのはちょっと重みが違うと感じた。
まあ、それに代わって心の声を聞きなさいと言うシーンも出てくるし、バロンの一件もあるので仕方ないのかもしれない。いいキャラクターだが、少し影が薄くなってしまったのは残念。
今回の映画だけに関していえば、ストーリー的におかしくはないのでまあ良し。
【主題歌がなぜ翼をください!?】
ジブリ版を見た人がみんな思ったであろう謎。ここは「カントリーロード」でしょうが!・・と鑑賞前は思ったのだが、これが意外とハマっていて良かった。
特にイタリアの聖司の元へ行った雫が、チェロの演奏に合わせて歌うシーンは過去の2人とリンクしていて、当時の純粋な気持ちを蘇らせたとても良いシーンだった。・・楽曲の変更は、もしかして権利関係とかもあったのかもしれない。
【聖司の告白シーン】
ジブリ版を見た人はもれなく期待していたであろうシーン。アニメの方では中学生の聖司が「結婚してくれ」と言っていて、ややリアリティに欠けるもののインパクトがあり、あれは素晴らしいシーンだった。
今作では中学生らしいピュアな指切りで「またここで10年後に会おう」と約束させておいて、10年後の聖司にプロポーズさせる。冒頭にチラ見させておいて、最後にまた過去とリンクさせた演出、親友の結婚や、イタリアでの一悶着もあってのこの演出は正直ニクイ。雫の胸中を想像すると、思わず泣いてしまったじゃないか・・
「はい」と答える雫の表情がとても良かった。分かっちゃいたけど安心納得のエンドだった。
【エンドロール】
先に書いたように、なぜ「翼をください」なのか問題はあるが、映画を最後まで見ると感情移入していてスッと胸に染みてきた。また、杏の澄んだ美しい歌声もよかった。
さらに映像が完全にジブリ版のオマージュで、最後にほっこりした気分の中、ニヤリとしてしまった。
【設定】
なぜ1988年と1998年なのか?アニメ公開時の1995年と10年後の2005年でいいじゃないか、と思ったのだが、これはあえて年代を古くしたのだろう。
連絡手段は手紙、電話も公衆電話でテレホンカード。2000年代で携帯電話が普及していると、遠距離恋愛のもどかしさが表現できない。この2人のピュアな純愛には必要な演出だったのだろう。
・・最後に、
特に際立って良かったと言うところはないものの、安心してほっこりできる映画。期待値に十分達している。
実写化に賛否はあるようだが、私はとても楽しめたし、原作漫画やジブリ版をそのまま実写にしても、映画の演出的に面白みに欠けるのかもしれない。漫画やアニメ、映画などそれぞれの媒体にあった演出をして、結果話が多少違っても、世界観を崩さず良いものができればいいじゃないと思う。
そして、この映画はそれに成功していると思う。自分の青春時代を思い出し、気持ちの良い鑑賞後感だった。
・・オマケ。
ラストシーンで雫が書き上げた「耳をすませば」
その後どうなったかはわざわざ示す必要もないでしょうが・・・映画のパンフレットを買えば分かるようになっている、これまたニクイ演出。