「カントリーロードから翼をください」耳をすませば bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
カントリーロードから翼をください
最近、サスペンスやミステリーばかりを観ていたせいか、久しぶりに爽やかで、それでいてほんのちょっぴり切ない、ラブ・ストーリーに、心も洗われ、癒しの時間を過ごした。
スタジオ・ジブリの『耳をすませば』のストーリーのその後を、実写化によって描いた本作。中学3年生だったあの日、雫は物語作家になることを誓い、聖司はチェロ奏者としての夢に向かって歩み始めた10年後の2人の姿。あの頃の回顧シーンも、実写化で再現しながら、ストーリーは展開していく。
イタリアに渡り、チェロ奏者として、次第に実力を認められ、コンサートも開けるようになり、成功を収めた聖司。それに対して、小さな出版社に勤めながら、地道に小説の投稿もしていたが、なかなか陽の目を見ない雫。仕事でもミスが多く、上司からもパワハラとも思える叱責を受け、自分を見失いかけていく。そこで、雫は、聖司と会って、自分の気持ちに向き合うために、イタリアに渡るのだが、そこで思わぬ展開に…。
内容としては、それぞれの夢を追いかけながらの、ベタなラブ・ストーリーと言える。ラストも決して観る者を裏切らない、予想通りのハッピー・エンドが用意されている。殺伐とした世の中で、ほんのひと時、少女漫画チックなオアシスを味わうことはできる作品。
但し、これがアニメなら、台詞や展開も文句はないが、実写となると、浮いた台詞や演技、シチュエーションに、ややリアルさに欠けていたように感じた。中学生の雫役の子は、確かに演技は上手で、アニメの雫を模しているのだろうが、実写となると、大げさな演技が舞台演劇のようで、自然ではなかった。一方、聖司の中学時代役の子は、大人役の松阪桃李の雰囲気も良く捉えて、ボツボツとした語り口も、自然でよかった。
そして、大人の雫役の清野菜名と聖司役の松坂桃李は、本作の様な揺れる心を持つ、ピュアなラブ・ストーリーから、激しいアクションやサスペンスまで、本当に幅広く安定感のある演技で、観る人の心を魅了してくれる。また、本作では田中圭や近藤正臣が、清野菜名を引き立てる脇役として、アクセントとなる演技を魅せていた。
テーマ曲が『カントリーロード』から『翼をください』に変わったのは、内容からも頷けるが、やはり、本作は『カントリー・ロード』がしっくりくると感じた。
全体的には、悪人は一人も登場しないし、優しさに包まれた作品であることは、間違いない。癒しを求めている方には、お薦めの作品。