「この日の思いを胸に生きる」泣く子はいねぇが humさんの映画レビュー(感想・評価)
この日の思いを胸に生きる
地元なまはげ祭り
酒の勢いにのまれ失敗し過ぎた男、たすく
この夫と生きるのはもう無理だと決めた嫁、ことね
前兆は既にあった
たすくがあやすが泣き止まない我が子・凪を
ことねが交代し
凪にいう
ー怖かったね、もう大丈夫
茫然とするたすく、。。
もう夫婦はグレーゾーンに居た
いや正確にいえば、ことねは居た
ーなにへらへらしてんの?
ーごめん
つかれきった嫁の顔
ーいつか限界になる
うっすら笑うたすく
ーなーんも考えてないっしっょ
とうに2人の雲行きを感じ取っている義父もたすくに言う
ー空っぽになったらおしまい
ー飲まないよね?
ことねのそらさない鋭いまなざし
たじろぐたすくに
なまはげ様も神様も仏様も
そっぽをむく
自分でつくり、生み出し、にぎらなければいけないこの男にないものがみえる
自信のかけらと誠意のしるしだ
100歩どころじゃなく譲られたなら守るべき責任があった祭りの席
伝統行事の後継をのぞむ夏井のことばや地元ならではの盛り上がりにたすくは自分の居場所と役目を感じとり、持ち前の明るい思考でたすくは勢いをつける
そしてついにあの時のことねのまなざしを忘れた
波ざわめく夜
太鼓の響き、なまはげが威勢よく脅す声、ちいさな子供の叫び声
路上ではテレビの生中継で雄弁に語る夏井
そこに千鳥足で横ぎる全裸のなまはげ・たすく
凪をあやしながらみえた画面に固まることね
見覚えしかない終焉の後ろ姿
最悪すぎた
終わった感しかなかった
離婚されたたすくは東京に居る
新しい環境にいても取り返しのつかない過去を引きずり、うだつの上がらない空虚感が漂う
知り合いの女の子に誘われても煮え切らず情けない男に思われたり、志波とでかけた居酒屋で夏井がなまはげついて謝罪してる番組を目にしたり、義父が亡くなりことねは水商売をしているときいたり。ハズレのおまけで因縁をつけられたりと運まで悪い
志波との会話では
ー全員 他人だや
と、孤独感が出ている
ーお前父親だろ?
といわれ、
ーいや、お前に関係ないから
と、投げやりにもなっている
空気の悪さはmaxだが幼馴染は見捨てない
そのまま明け方の公園
ー楽しいよ、こっちは
あまりに嘘だ
志波にもカラスにも見抜かれているたすくの本心が
間もなく夜行バスで
兄と母がいる実家に向かわせる
あの件以来なのだろう
ーいろいろごめんね
たすくが絞り出した言葉を
そらし、晩飯の支度に立つ母のやさしさ
許し切れていない兄は素気なく
ーお前はいいな好き勝手に生きれて
ーみんな忘れようとしてくれている 余計なことをするな
とののしる
笑うたすく
笑ってしまう、これがいけないんだよ たすくくん
ー端からみたらそうなの
兄だからこそ、怯まずはっきり言う。アレが、とりかえしのつかないことだったことを
志波が仕事中の赤い屋根の上
ー男鹿にも東京にねぇもんいっぺえあんだろ
志波はたすくが大すきだな。
こんなたすくだけど、そばにいてほしそうだ
たすくはそれほど気にしていないが、志波がそれをたびたび口にするのが二人の関係っぽい
ながまだまだたすくはことねへの未練で頭がいっぱいでようやく見つける
ー何しに来たの?
ーあなたみたいに、バカなことしない
ー私 再婚するの
去ることね
立ち尽くすたすく
ー止めてほしいようにみえた
志波にそれを報告するたすく
いや、みえなかった
ことねの、たすくを好きだけど、違う人生を行きますという固い意志だけがみえたよね?
みえたけど?
たすくは、純粋で鈍いのだ
絶望的場面の単独な前向き感をきちんとキープする
そして持ち前の人間らしい泥臭さで、志波がかかわってるちょっとあやしい密猟商売に片足をつっこみながらも、ことねと凪への金を貯めはじめる
あやしい経営者が言った怖い言葉
ーみんなのなまはげ
わわわ〜ぞっとした
知り合いだらけの田舎で、なまはげの災いが脈々と生きているとしか思えない
そして、
ー東京にねぇもん
いっぺぇ あんだろ
志波がまたまた伝えたい、ふるさとには捨てない繋がり
役所で久々の夏井に見つかり
熱く叱られながら、たすくはすごすごと立ち去ってしまう
夏井、めをつむり上をみあげる
お手上げの情けなさかみしめてたな
だめだなーたすくくん
そこもだめだめなんだよ、きっと
ことねはパチンコ屋でたすくの母をみかける
妊娠以来のタバコ復活だというせつ子のストレスを感じたのだろう、涙目になることね
ーお義母さん、私…
ーだいじょぶだぁ
言葉をさえぎりうなずくせつ子
だめ息子の元嫁の決断に理解と尊重を義母は表した
少し気分が晴れやかになったのか、義母に安心を与えるためか、ことねは明るく手を振り去る
反対に思いの募った表情がそのまま佇むせつ子から漏れる
数日後、たすくと一緒に居たアイス販売の仕事先で倒れたのは心労が原因だよね
ことねが聞きつけ心配してあらわれたすくに再会
たすくは嬉しくて明らかに態度が緩んでる
素直すぎる
許される予感でもしたか?
車の中で話すことねの目は変わらず冷静でたすくを君と呼び心の距離をとっている
謝罪とチャンスを乞うたすくに
ー決めたの
君じゃないって
ーその「君」ってやめてよ
ー忘れてほしい
ーもう生きていける
車から出るバタンの音が
おしまいと言った
ことねは前向きに、生活していく手段をかんがえて支度していた
あれからなにも進展なしのたすくとの差はっきり
ことねの見極めはただしかったと思う
たすくは凪をみたくてこっそりとお遊戯会へ
ことねは今後のだんなさんといる
しかし、自分のこどもがわからない
これが現実なのだ
ふがいなさの沼に居るたすくは父の遺品の材料で彫ったお面でなまはげになることを決める
居合わせた志波が着替えを手伝う腐れ縁がなんともあたたかなシーン
(親父の撮ったビデオテープ、みつけた感動も束の間。。。しかし兄弟の笑顔、そして兄の本音と涙。これもあたたかかった。)
なまはげたすく、夏井率いるなまはげたちにでくわし、とがめられるが志波が夏井をおさえこみふりきる
向かう先は。。。
(真剣に教えようとするこんな先輩がいるって、ありがたく貴重ですよね)
クライマックス
東北の凍てつく夜の雪
だめだめなたすくなまはげのがんばりどころが来る
むすこ凪のもとへ
ガラス越しすぐに気づいたことねは
お面の奥の目をじっと見据える
この無言の二人の目と目の演技に
しびれた
凪にあいにきたたすくの気持ちをついに認め、団欒の声がする室内に通してくれたことね
ここを通しても揺るがない母としての強さが
新しい結婚指輪に一筋の哀しさ以上のものを宿らせていた
ことねの新しい居場所
親戚一同がぐるりと囲む立派な座敷に
新しい父の膝でおびえるちいさな凪
たすくが凪の名を叫ぶ、全身全霊で
愛を込め
自分みたいになるなを込め
ことねを頼むを込めたか
激しいなまはげの雄叫びに泣きわめく凪
おそらく最初で最後だろうが
凪の産みの父としてのなまはげになれたたすく
この日の思いを胸に
きっとまた憎みきれないたすくらしく周りに愛され
何度もくじけながら
前向きに生きていくだろうとおもった
仲野太賀、吉岡里帆
憑依したようなたすくとことね
人間らしい愛と涙の感動の一作です
長くなりました…