「「筋書き通り」を面白く見せる演出力。」ジェントルメン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「筋書き通り」を面白く見せる演出力。
◯作品全体
冒頭のシーンのツカミ、煙のイメージを使ったシームレスなOP…そうそう、ガイ・リッチー作品ってこれだったよな、とか思いつつ、改めてガイ・リッチー作品の情報の出し方の巧さに膝を打った。
記者であるフレッチャーが麻薬組織のドンであるミッキーの右腕・レイへ暴露記事の買い取りを迫りつつ、暴露作品の脚本に沿って過去を洗っていく。この部分はレイも知っている過去なので嘘が付けない分、真実に近い物語が語られるが、フレッチャーが面白おかしく作劇している部分もあって、画面上での演出と事実に少し齟齬があったり、後々フレッチャーが画面上とは違う別のアングルを提供する。フレッチャーの状況やフレッチャーとレイが話している間に展開される「今現在」次第でこの別のアングルが登場するのがすごく面白い。
ロシアン・マフィアがレイたちを狙う終盤のシーンはまさしくそれで、マンションから落下死したマフィアの子供の話をしているところでフレッチャーがその話をしていれば最後は違った展開になっていた。
ただ、フレッチャーはじめ、それぞれがキチンと自分の役割をこなしているから、それぞれの思惑のまま事を進める物語を沿うだけになってしまう。そこでセオリーを崩すのがコーチたちなわけだが、この作品に交わるノイズのような存在が、煩すぎず、静かすぎない、絶妙なポジションだったと感じた。ミッキー側にとっては麻薬農場を破壊され、市場価値を落とす張本人の一方で、最後の最後で思惑はまったく異なるが、救世主にもなっている。イレギュラー要素が鍵を握っているが、それぞれの陣営に深く介入しないからそれぞれの陣営の思惑は成り立っていて、そこに「お粗末な作戦」感を感じさせないのがとても良いな、と思った。
脚本をなぞるような構成、それぞれの狙いや対処が的確…こうした作品はいわば「筋書き通り」なわけだが、本作はそれに対してどういったカメラで、どういったカット割りで演出すれば面白くなるかという部分が魅力になっている。そしてコーチたちがもたらす「筋書き通り」を打ち崩す化学反応が更にスパイスになっていた。
それぞれの思惑や行動が繋がっていく中盤から終盤を楽しめるのは、序盤からキチンと仕事をするジェントルメンたちの能力と、それを映し出す演出力があるからこそだ。そして、だからこそガイ・リッチー作品は楽しいのだ。
◯カメラワークとか
・画面にどデカく映し出す文字演出、やっぱりかっこいい。キャラクターをバカにする時の手書き風文字演出もちょっと時代遅れ感を感じるけど、そのチープさが逆に味になってる。
・一度語られたシーンに張られていた伏線にもう一度触れるときの短いカット割りのセンスが、ガイ・リッチーの一番強いところな気がする。長々と触れられても「ここですよ!」と強く主張されてる気がするし、セリフで語るだけだと味気ない。本作だとマンションから落下ししたロシアン・マフィアとそれを写真に撮る不良少年あたりのカット割りが秀逸だった。
◯その他
・ちょうど『オペレーション・フォーチュン』を見たばっかだから目についたけど、同じバーベキューグリル使ってた。高級っぽい、木製の机に埋め込まれるように置かれてる蓋がついてるタイプのやつ。
・途中からフレッチャーの脚色を推測するのが面白くなっていった。序盤でミッキーがドライアイと護衛を撃ち殺すシーンがあったが、次のカットでレイが「そんなことしてない」みたいなことを言って否定するのがそもそも面白かったが、ああいう脚本向きなシーンが出てくるたびに「これはフレッチャー・フィルターか?」と推測するような。ジョージ卿が盛大にゲロをぶちまけるところもフレッチャー・フィルターかとおもったけど、あれは史実っぽい…?