「待望のガイ・リッチー節で描く愛嬌ある悪党」ジェントルメン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
待望のガイ・リッチー節で描く愛嬌ある悪党
アバンからタイトルバックにかけての流れが既に痺れるほどかっこいい。レコード音質の「Cumberland Gap」を従えたレトロでスタイリッシュな映像、小気味のいいテンポ。久々のガイ・リッチーらしさにワクワクした。
物語の大雑把な筋は、ロンドンのマリファナ王ミッキーがリタイアするためにユダヤ人富豪マシューに事業を丸ごと売ろうとする、マシューはチャイニーズマフィアを使って買い叩くための策略を巡らし、丁々発止の小競り合いが勃発する、そんなところ。そこに色々個性的なワルが絡んでくる。
この筋を内偵した私立探偵フレッチャーに語らせた上で、ところどころ時間軸を入れ替えたりフレッチャーの創作を挟んだりしていて、メタ的なものも含めると三重ほどの入れ子構造のパズルのような構成になっている。トリッキーな語り口で展開する物語の中、登場人物同士の騙し合いも絡むから終始目が離せない。
ぽんぽん話が進むので、状況を把握しながら付いていくのはそれなりの集中力を要するが、何しろ粒揃いのキャラが楽しい。
個人的にお目当てだったヒュー・グラントはすっかり甘さが抜けて、味のある曲者親父になっていてとてもよかった。狂言回しとして出番が多かったので満足。どんな役でも出来るイケメン、マシュー・マコノヒーは安心して見ていられる。
そして今回のお気に入りはコリン・ファレル。悪事に後ろ向きな一般人なのに、ジムの教え子トドラーズに引きずられる体で活躍してしまう。でもどこまでもアンニュイなまま。トドラーズ共々上下チェックのジャージがキャラにマッチして真似の出来ない(真似したらダサくなりそうな)かっこよさ。黒人の教え子とのやり取りは、現代の言葉狩りへのアンチテーゼかな?と思った。
中国資本が入り込んでチャイナ忖度が広がる業界のトレンドどこ吹く風で、チャイニーズマフィアといえばヘロイン!みたいな描写を入れてくるのも清々しい(笑)。
序盤はフレッチャーの一人語りが多めだが、ばら撒かれたピースが話の進行に従って整頓されてゆくので、尻上がりに没入出来る。
エキセントリックで魅力的なキャラ達が織りなす畳みかけるようなコンゲーム。テレビドラマ化の構想もあるそうで、今から楽しみだ。
にっこりさん、コメントありがとうございます。
私が言及した「チャイナ忖度」は、あくまで映画業界での話です。「ドクター・ストレンジ」で原作のチベット系老師を白人俳優に置き換えたことや、「パシフィック・リム/アップライジング」のような描写が念頭にありました。近日公開ですが「トップガン マーヴェリック」ではフライトジャケットから日本と台湾の国旗が消されているそうですね。その類の忖度です。
本作での中国人とヘロインの描写は、イギリス(正確にはアメリカとの合作)の作品としては無責任と言えるかも知れませんが、上記のような忖度とは違うかな、というのが個人的見解です。
清々しいところ失礼します。イギリスが中国にヘロインの話題切り出すのは、中国がアメリカに貿易摩擦の話題切り出したり、アメリカが日本に原爆の話題切り出したり、日本が韓国に慰安婦の話題切り出したり、韓国がベトナムに戦争犯罪の話題切り出したりする様なもので、道徳的に不利な話題をわざわざ切り出す事に意図する意味は謝罪と歴史修正の二つに一つだと思いますが、おっしゃる「チャイナ忖度」ってまさにこれでは?