「緊張感は静かに高まっていく」プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
緊張感は静かに高まっていく
人はひとつの作業を繰り返しているうちに自然と熟練していく。特に物造りの作業では沢山の工程をこなすほど上達も早い。ましてやその作業に命がかかっているとなれば、熟練の速度も段違いになる。木で作る鍵も熟練すれば丈夫に精密になるだろう。
本作品で伝わってくるのは、理不尽なアパルトヘイトが社会に蔓延して小役人がそのパラダイムを後ろ盾に横暴な権力を振るって人権を蹂躙していることに対する怒り、そして脱走の準備をする主人公たちの緊張感である。
同じ日常の繰り返しが続くが、高圧的で横暴な看守たちの姿の向こうに、主人公たちは差別され続ける黒人たちを見る。逢えない家族の姿を見る。看守に歯向かう者もいれば従順を装う者もいる。囚人たちの姿勢は様々で一枚岩にはなりえない。しかしひとつだけ共通しているのは看守たちに仲間を売る者がひとりもいないということだ。自分たちは犯罪者ではなく政治的に拘束されている人間であるという認識は一致している。
映画としては同じようなシーンの連続だが、少しずつの変化を読み取れれば退屈することはない。徐々に近づいていく結構の日に向けて、緊張感は静かに高まっていく。
ダニエル・ラドクリフをはじめとして俳優陣はみな好演だった。憎まれ役の看守たちも好演。あまりお金をかけていない作品だと思うが、緊迫した場面や間一髪の瞬間もあり、割と面白かった。実話をもとにした映画とのことで、その後の南アフリカの政治的な展開を考えれば、彼らの脱獄の意義は大きかったと思う。
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