「かりそめの常識に中指を突き立て笑顔でビンタをかます『民衆を導く自由の女神』を高らかに称えるエスプリが際立った野心作」シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち よねさんの映画レビュー(感想・評価)
かりそめの常識に中指を突き立て笑顔でビンタをかます『民衆を導く自由の女神』を高らかに称えるエスプリが際立った野心作
元五輪の銀メダリストのマチアスは絶賛スランプ中の競泳選手。ゲイのインタビュアーから辛辣な質問をぶつけられて思わず差別的な捨て台詞を吐いてしまい、その罰則処分としてゲイの水球チーム“キラキラエビ”のコーチとなり、3ヶ月後に開催されるLGBTQスポーツの祭典“ゲイゲームズ”に出場させること。メンバー一人一人の個性が際立ったチームメンバーに初日から手を焼くマチアスはチームのリーダー、ジャンがある問題を抱えていることに気付いてしまう。
スペイン映画『だれもが愛しいチャンピオン』にも似たプロットですが、フランス映画なのでエスプリの効かせ方がエゲツない。そもそもマチアスの差別発言に対して「それはお前が正しい」と真っ先に同情を示すのがチームメンバー達であるところ。試合中にも差別用語を連発しまくる彼らは、動揺するマチアスに「私達はマイノリティだから何言ってもいいのよ?」と言い放つ。遠征の先々で騒動を起こす彼らの行動はお下品ですが、その根底にあるのは民主主義に根差した反骨精神。劇中で意見をまとめる際に多数決を採る場面が頻発しますが、それは民主主義イコール多数決という偏見を盛大に蹴り飛ばすための用意周到な前フリ。ライアン・ゴスリング、セリーヌ・ディオン、ボニー・タイラーといったゲイに絶大な人気を誇るスターへの言及も楽しいですが、セリーヌ・ディオンのデュエット曲『Sous Le Vent』には思わず泣かされました。同じくゲイコミュニティーを描いたドラマ『ステージ・マザー』ではボニー・タイラーの『Total Eclipse of the Heart』が高らかと歌われましたが、こちらの劇中で何度も言及されるのはアノ曲。その余りにも切なく辛辣な引用にドラクロワの『民衆を導く自由の女神』を見た気がしました。
ということであくまでも煌びやかで下品な体で現代社会の表層をガッツリ抉ってくる野心作。笑顔でビンタを食らわしてくる強烈に痛快な作品です。