グンダーマン 優しき裏切り者の歌のレビュー・感想・評価
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伝記映画と同時にミュージック・フィルム
なぜか“旧東ドイツ映画祭り”になっている渋谷界隈である。
映画「ハイゼ家 百年」と同じく、ドイツのことをよく知らない自分には、理解できないところが多すぎた作品だった。
(ちなみに、映画「ハイゼ家 百年」でも出てきた、ハイナー・ミュラーやクリスタ・ヴォルフも協力者であったという、TVのシーンが出てくる。)
フラッシュバックがランダムに入り込むのに対し、グンダーマンの容姿に大差ないので(笑)、今のシーンがいつの時代なのか分からないのが、一番の苦労だ。
子供の成長でかろうじて示唆するものの、時間の推移が分かるように描いていない。
自分はコニーすら、最初は同一人物とは気付かなかったが、連れ子はどうなったのだろう?
ちなみに、エンドロールでコニーへの謝辞が出るが、コニーも制作に関わっているという、“認証済み”作品のようである。
冒頭で、グンダーマンが秘密警察に協力するシーンが描かれる。
マルクス主義信奉者でありつつも、“体制順応主義者”どころか、軍隊からは追放され、党幹部に食ってかかって党から除名されるような姿勢を貫いたグンダーマンが、なぜ協力者になったのか、理由や状況がよく分からなかった。
正確には「国外での音楽活動を認める見返り」だったようだ。しかし、はっきりと外国と分かる映像が出てこないので、メリットを享受していたようには見えなかった。
また、「加害者ファイル」と「被害者ファイル」の話も理解できなかった。
グンダーマンは、秘密警察の非公式協力者であると同時に、逆に秘密警察から監視される対象でもあった。
だから、「グレゴリ」名で自分が作成したレポート「加害者ファイル」は見せてもらえるが、他人が自分を告発したレポート「被害者ファイル」は見せてもらえない、ということだ思うのだが、合っているだろうか? あるいは、逆だろうか。
彼は、潔い男だったようだ。
個人的には、知人に自分の行為を告白して回っているが、メディアに対して、わざとらしい謝罪を表明することはなかったという。
周囲の人間も、彼の音楽のファンも、最終的には彼と“和解”したような映画のエンディングとなっている。
本作は、伝記映画というだけでなく、同時に“ミュージック・フィルム”でもある。
演奏シーンは本当に多い。重点は、音楽の方にあるのでは、と思うほどだ。
巨大な褐炭の掘削機を操作しながら、作詞するところが何度も出てくる。グンダーマンの詞のインスピレーションが、どこから来たのか分かる。
彼にとっては、曲によって大差ない定型的なメロディーよりも、詞の方が大事だったのだろう。だからこそ、専門のミュージシャンではなく、掘削機技術者として短い生涯を終えたのだと思う。
グンダーマンの歌は、“炭田に咲いた花”だ。
映像は良い感じだ。炭田や露天掘りのシーンはダイナミックで、映画館でスケールを楽しみたい。
マイナス点としては、128分も尺があるのに、スピーディーに淡々と話が進み、グンダーマンの内面の葛藤などは描かれないこと。
秘密警察の恐怖も、被告発者の悲惨も描かれない、悪い意味で“軽い”作品である。劇映画としては平均未満だ。
ドイツでは、本作品は「映画を楽しみながら、歴史を学び再評価する」という意味合いがある作品なのだろう。
だからドイツ人には説明不要でも、自分には理解のハードルが高い作品であった。
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