マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ” : 特集
顔出しNG、謎のデザイナーの発想力がすごい!
常に新しいアイデアを生み出す天才が自身の言葉で語る
話題の映画を月会費なしで自宅でいち早く鑑賞できるVODサービス「シネマ映画.com」。本日2月18日から、「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」の先行独占配信がスタートしました。謎に包まれた天才デザイナー、マルタン・マルジェラに迫ったドキュメンタリー。これまで公の場に一切登場せず、あらゆる取材や撮影を断わり続けてきたマルジェラが、「このドキュメンタリーのためだけ」「顔は映さない」という条件のもと、肉声で自身のキャリアを語った貴重なドキュメントです。
監督は、「マグナム・フォト 世界を変える写真家たち」「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」などで知られるドキュメンタリーの名手ライナー・ホルツェマー。このほど、編集部スタッフが見どころや感想を語り合いました。
シネマ映画.comで今すぐ見るマルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”(ライナー・ホルツェマー監督/2019年製作/90分/G/ドイツ・ベルギー合作)
<あらすじ>初公開のドローイングや膨大な量のメモ、幼少時に作ったバービー人形の服などのプライベートな記録を見せながら、ドレスメーカーだった祖母からの影響、ジャン=ポール・ゴルチエのアシスタント時代、ヒット作となった足袋ブーツの誕生、エルメスのデザイナーへの就任、そして51歳での突然の引退など、キャリアやクリエイティビティについてマルジェラ本人が語る。
座談会参加メンバー
駒井尚文編集長、和田隆、荒木理絵、今田カミーユ
■日本のデザイナーにも影響されたマルタン・マルジェラ駒井編集長 まず最初に、私はマルタン・マルジェラという名前を知らなかったんですが、皆さんご存知でした?
荒木 知っておりました! 私はバッグ持ってます。ヴィヴィアン・ウエストウッドやマルジェラはバンドやってる子は好きな感じのブランドですね。
今田 自分では買ったことはありませんが、ファッション誌などを通して知っていました。30代以上で、カルチャー好きの女性に支持されているイメージです。
和田 私は知りませんでした。
駒井編集長 なるほど。ジェネレーションギャップを感じるなあw ジャンポール・ゴルチエやエルメスの仕事しているのに、顔出ししないからそんなに有名じゃなかった印象です。
荒木 シンプルでちょっと癖があって、カッコいいんです。レザーのジャケットとか、タビみたいなブーツとか、特徴的なアイテムで知名度があるんじゃないでしょうか。
駒井編集長 やっぱり、自分の名前を冠したブランドは大事ですね。私はこの映画を見てて、「夜霧のハウスマヌカン」って歌を思い出していました。バブルの初期80年代初頭のDCブランドブームはすごかった。ワンレン刈り上げでとてもお洒落なんだけど、薄給なのでランチはのり弁食べるハウスマヌカンとか。映画でも言及ありますが、川久保玲は偉大ですね。コムデギャルソンね。日本人で、パリで大成功する人ってすごい。
今田 川久保さん、そしてコムデギャルソンは今でも大きな影響力がありますし、50年近く最前線にいらっしゃるということですよね。
荒木 マルジェラも「日本人のデザイナーに夢中だった」って言ってましたね。
駒井編集長 イッセイミヤケ……デビッド・ボウイもイッセイミヤケだもんねマルジェラも、東京で見た地下足袋からヒントを得た話とかあって興味深かったなあ。世界のデザイナー、みんな日本に来てたんだよね。ああ今は昔。
■顔は一切出さず、自身の仕事のみを語る徹底ぶり駒井編集長 さて、話を映画に戻しましょう。「顔出し」がひとつのテーマですよね。映画の世界でも、アニメの作家とか顔出しはNGってケース時々ありますよね。
荒木 繊細なハートを守るための手段なのでしょうね。インタビューで純粋にモノづくりがしたい人なんだなって感じました。
和田 条件であるとは言え、顔は一切映さない徹底ぶりでしたけども見応えがありました。器用な手元だけでも。
今田 ブランドとしての名前と、洋服いわば仕事だけで勝負しているのがかっこいいなと思いました。
和田 映画を見ていて、彼が過去に手掛けた服を見ると、この形を最初にデザインしたデザイナーだったのか!と、デザインは見たことがあって興味深かったです。
駒井編集長 顔出しNGは、もう最後は意地になってやってるだけじゃないかって思いましたよ。「有名になりたくない」って顔出し拒むのとブランドとして「マルタン・マルジェラ」が存在するのって大いなる矛盾じゃないですか。
今田 見当違いかもしれませんが、職業柄美意識が高すぎて、自分の容姿にコンプレックスがあるのかな?とも思いました。もしくはバンクシー的な戦略ですかね?
駒井編集長 神秘的な人物を演出というのはあるかも。まあでも、関係者はみんな顔を知ってるわけだから、バンクシーとはちょっと違うなあ。でも確かに、あんまり有名になると気軽に外で食事もできなくなるっていうからね。いろいろ事情があるんでしょうね。
■なぜ、今回肉声で自身のキャリアを話したのか?和田 引退はしたけれど、過去のデザインは再評価して欲しいというクリエイターの性を感じました。2018年2月、マルタン・マルジェラのすべてのコレクションの回顧展が準備中だったことも映画出演を後押ししたとのことですので。
荒木 マルジェラが若い頃、ゴルチエに憧れてヨーグルトのフタでバッジ作ったんだ、ってエピソードもあってなんだか意外でした。あんなに破天荒なショーをやる人なのに、そういうの臆面もなく話しちゃうんだ、って。
駒井編集長 若い頃、小さい頃の話はめちゃめちゃ面白いですよね。バービー人形使って洋服デザインしてたりとか。 デザイナーはみんな使ってのかな。バービー人形。
荒木 ファブ5のジョナサンも、バービーに出会ってヘアデザインに目覚めたって言ってましたよ 笑
今田 レディースからスタートですから、人形遊びで女性的な感性がはぐくまれたのかもしれませんね。監督のインタビューで「撮影前にマルタンは何を話すのか、ということを準備したがっていた」と言っていたので、やはり完璧主義、コントロールフリークなのだなと。
和田 お祖母さんの影響も強いと言ってますね。
駒井編集長 お祖母さんが仕立て屋だから、自分で縫わなくてOKでしたね。超ラッキーな人だと思いましたよ、マルタン。監督はどんな人?
今田 ドイツのドキュメンタリー監督です。ドリス・ヴァン・ノッテンのドキュメントも撮っています。天才的なクリエイターに興味があるみたいですね、ファッション業界に顔も広いようで。
駒井 ですよねえ。2007年の「マグナム・フォト 世界を変える写真家たち」は見たことある。
今田 クリエイターを撮るクリエイターという関係性も面白いですね。監督のインタビューでは、マルジェラは音楽が好きで、「ストーンズやボウイのためだったらなんでも作ったのに」と言ったそうです。
駒井編集長 デビッド・ボウイは、みんな洋服やりたいだろうね。あんな被写体はなかなかいないもんね。
■ファッションやマルジェラに詳しくなくても楽しめる映画今田 ファッションの映画ですが、マルジェラを知らない方でも楽しめる作品ですよね。
和田 完璧主義、コントロールフリークであろうマルタンがエルメスのデザイナーを兼務し、自分のスタジオが大手資本にのみ込まれていく後半の話は面白かったですね。
駒井編集長 エルメスの次がディーゼルってのも、なかなかシュールだなあと個人的には思った。
今田 ビニールのショッピングバッグで洋服作ったり、ショーを倉庫でやったり、意外と保守的なパリのファッション界の常識を覆すようなことやっているので、コンセプトとしてストリート系とも相性は良いのかもしれません。
駒井編集長 エッジの効いたデザインは、エルメスではさすがに難しいでしょうから。
荒木 「常識を覆す」「独自のスタイルを貫く」っていうパンクなスタンスが、音楽好きの若者の心をつかみまくるのかもしれません。
駒井編集長 なるほど!
荒木 私はブランドにあまり興味ないので、ヴィヴィアンやマルジェラはカルチャー的な文脈で耳に入ってきたんだと思うんです。そういう「カルチャーを作った人」の伝記としてとても面白かったです。
和田 天才あるあるじゃないですけど、最終的に長年一緒にやってきた自分のチームと、ブランドを手放さなければならなくなるわけですから、達成感とは別に、悔しい思いもあったでしょう、そういうドラマも見どころだと思います。
今田 発想力がすごいですよね。タグを縫い付ける糸を敢えて見せるとか、ビンテージを布に転写するとか。ワクワクします。そういったアイディアが“発想の転換”で「他人が思いつかないか、やる勇気がない試み」と本人が言ってるのが刺さりました。この映画でマルジェラという人物の思考の一端が見られたのがうれしかったですね。
駒井編集長 私はマルタン・マルジェラ知りませんでしたが、相当に面白かった。名前は知らないけど、その偉大さは十二分に分かります。あと、顔出しのアリナシについて、深く考えさせられましたね。これが、SNSの時代に果たして可能なのかってことも考えながら見てました。 シネマ映画.comで今すぐ見る