劇場公開日 2020年3月20日

  • 予告編を見る

「存在は空間か時間か、去勢された日本人に問う。」三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実 アッサミーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0存在は空間か時間か、去勢された日本人に問う。

2020年5月24日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

私にとって、三島由紀夫といえばやはりその最期の場面、1970年11月25日に陸自市ヶ谷駐屯地に立てこもり、自衛隊員にクーデターを呼びかけた後、割腹自殺を果たした人物として記憶に刻まれている。
当時私は小学5年だったが、テレビの映像を鮮明に覚えている。この度、このドキュメント映画を観て改めて三島由紀夫という人の持つ魅力、全身から放たれるオーラがすごいと思った。人を動かす源はやはり、ハートなんだと思う。
その思想性においては賛否両論あると思うけど、あのときの三島は少なくとも現在とは違って、おかれた立場がマイノリティ側だった。彼は楯の会を作り、若者と夢を共有しようとしてたけど孤独だったはずだ。そこが私は好きだ。彼の愛国や天皇観は国家権力と直接的に結びついていないところに惹かれる。
気になったのは、三島の目だ。私には目力というよりは、子供だけに許されているある種の快活さや素直さ、透明感のある澄んだ瞳に見えた。
東大生も三島も当然だけどエリートで、三島自身は嫌がるだろうけど、いくら肉体を鍛えたとしても、当時の炭鉱労働者や水俣で生きた人々に取っては両者とも、お坊ちゃまのママゴトに見えたのではないかと思う。三島は頭でっかち足し算を自覚しつつも、玉ねぎの引き算をやった末に、その存在を時間軸に据え付け、こうして私たちの前に蘇る、そういう自己完結の仕方をとった人だと思った。
この映画に触発されて、人々が1960年代を懐かしんだり、憧れるのではなく、自分の頭で現在の個人と国家との関係を考えてみる、そういう機会になる映画だと思う。

アツサミー