「男社会に貢献しない。」82年生まれ、キム・ジヨン だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
男社会に貢献しない。
わたしは1981年生まれです。女です。
キムジヨンより半年くらい年上です。
原作は未読、書店で積まれているのを見て、文庫になったら読みたいかもって思っていました。
あまり韓国のドラマ・映画は知らないので、ジヨンもデヒョンも知らない役者さんでした。
デヒョンさん、井ノ原快彦氏に似てるなあ…と思っていました。
若くていけめんのいのっち。ってこう書くといのっちがいけめんでないみたいやん。いのっちもいけめんやで。
ジヨンが時々違う人みたいになる症状は、最初から夫の知るところです。
さっさと本人にゆうたれよというイライラは通奏低音としてありつつも、ジヨンが過去に経験した・見聞きした「女にだけ課される嫌なこと」エピソードは、なじみがあるものばかりです。
デヒョンの会社の同僚や、ジヨンの父、デヒョンの母、ジヨンの会社の同僚…
男尊女卑のゲス的言動を見るにつけ、背後から刺したろかいとの怒りを燃やしながら鑑賞しました。
見ながら『タリーと私の秘密の時間』に似てるな…と思って見ていました。
※『タリーと私の秘密の時間』のネタバレ注意※
『タリーと私…』は、3人の子育て中でへろへろのママ(シャーリーズセロン)が、シッターを雇ったことによって、忙しすぎてできなかったこと(掃除とか手作りカップケーキとか)をシッターのタリーが寝てる間にやっててくれた!助けてくれてよかった!って思ってたら実は、雇ってたシッターは若いころの自分だった、つまり若い頃の自分が助けてくれる妄想をしながら実際には自分で全部やってたから、睡眠不足・過労等で死にかけるっていうオチなんです。
イマジナリーフレンドを実在のシッターだと妄想してまで、「ちゃんと」求められる妻・母・女であらねばならぬとおもって頑張ったんですね。女の子が課された呪いの強さにびっくりしちゃう話なんです。
『…キムジヨン…』でも、ジヨンは求められる妻・母・女に「ちゃんと」なろうと努力しました。
自分の意に反しているけど、反論を飲み込み、夢をあきらめながら、「ちゃんと」求められる妻・母・女をやろうとした。
母もそうしていたように。義母や夫が望むように。
苦しくってたまらないけど、「ちゃんと」しなくちゃいけない。でもやっぱりくるしい。
巡り巡って、他人に憑依してもらってゆってほしいことを自分にいうという、とてもまわりくどい(けどせつなすぎる)自己防衛をするに至ったんじゃないかなと。
本当に他人が憑依しているわけではなく、無意識下でジヨンが自分でそうしてるんですが。
この自己防衛は、大した役には立ってません。周囲と自分に対して「ジヨン限界」ってことを伝えただけです。
そして、夫も母も「ジヨン限界」を知って泣いたりおろおろするだけで、そんなに大したサポートしてないと私は思いました。夫が育休取ったんかどうかは結局分かりませんでしたし。
ラストでは娘の送迎はやってるみたいでしたが…
僕のせいで君はこうなったんだろうかって怖かったと夫は泣きましたが、そのとおりや、死ぬまで詫び続けろって思いました(夫だけじゃないけどね)。
私は、すでに自分ひとりで頑張りすぎてボロボロになっている女本人の現状認識と前進を結論とするのでは、弱いと思います。
もっと夫が母が父が弟が義母が、することあるやろ、それを書けと思いました。
ジヨンのお母さんは、ご自分も辛い半生だったと思いますが、夫(ジヨン父)と息子(ジヨン弟・甘やかされボーイ)に切れるだけかい、と思いました。
いい話だし、みんな見たほうがいいけど、結論がさ。
苦しんでる女本人が、めっちゃ無理してた!死ぬほど頑張っててわたし壊れてる!って気が付いて、ちょっと落ち着いて本当の他人に手伝ってもらって頑張っていこう!って感じにまとめてるんですね。
それじゃたりないよ、『タリーと私…』もそうだったけど、わたしの頑張り方間違ってた(てへ)でまとめたらあかんやろって思いました。
女が苦しいのは周囲=文化・社会がおかしいからですからね。
まだ加害者を甘やかすんかいと思うんですよ。もっとちゃんと加害者に怒りをぶつけないと、またおんなじことにならへんか?って。
映画にするにあたり、取捨選択した結果なんだと思うんですが、もうちょいがんばって!って気持ちです。
とはいえ、未だ日本映画にはない問題提議ですから、その点はありがとうなんですけども。
そしてコロナ禍に加え、鬼滅のなんちゃらの一人勝ちである現在の上映ラインナップの中で、結構埋まっていた席と、そのほとんどが大学生くらいの女の子だったことを思うと、『タリーと私…』のころ(2018)より、確実に世界は前進しているのかもって気はしました。
私自身は、あまりにも世界が男のために形作られていることに絶望してしまっているので、この世界の存続に一切手は貸さん!と決意しております。よって、結婚も出産も拒絶。
恋愛も、男のプライドへの配慮がうざ過ぎて、もう結構ですという姿勢です。
とにかく「男をたてる」ってのがきもちわるい。
女にたててもらわなたたへん男って(下ネタ自重)てことか?寝言は寝て言え!!
って思ってます。
『…キムジヨン…』の中では、ジヨンの姉が一番近いですかね。
原作小説はもっとディープでこんなほわほわでは終わらないとのことで読んでみたいな、文庫になったら。