「過去と向き合っているドイツ。一方・・」コリーニ事件 yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
過去と向き合っているドイツ。一方・・
ドイツ映画。
非常に骨太なクライム・サスペンス。
扱っているのが、一番最後に出てくる1969年に施行された「ドレーアー法」。
この法律により、過去のナチスの犯罪の多くは裁かれなくなった(厳密には、謀殺から故殺扱いになり減刑された。故殺という法概念は現在の日本にはない)。
話の切り札としてこの法律をもってくる辺り、大変上手い演出だと思う。
そして、最後コリーニの取った行動。
こんな結末しかなかったのか。。しかし、満足感を得て死を迎えたのは良かったと言えるのかも。。
ドイツでは、こういうナチスの過去の犯罪をちゃんと現ドイツ人に埋め込むための映画が定期的に作られている気がする。民族浄化はたしかに酷い戦争犯罪だ。しかし、過去にイギリスやアメリカが犯した戦争犯罪は特に裁かれることはない。戦勝国なので。おそらく、敗戦国であるドイツは今後もこういった作品を作っていくのだろう。そして、ナチス時代を過ごした老人世代と、その子供、孫との世代をつないで、記憶が風化しないような装置を作り続けるのだろう。
さて、一方、同じ敗戦国である我々日本は・・。
なんか、比較するのも嫌になるが、現存している戦争体験者の子供、孫世代で、日本が日中戦争、大東亜戦争で何をしたか、過去と向き合っている人がどれだけいるのだろう?
ほぼ皆無と断言できる。
アメリカと戦争したことを知らない大学生もいるくらいだからな。。。
それでは、今からいきなり始められるか。
まず無理だろう。こういう営みは、ちゃんと世代間で引き継がないと成立しない。戦争体験者は戦後何も語らなくなり、その子供世代は思考停止の反戦を掲げることくらいしか行っていない。戦争を真正面から扱ったのはサブカルであるアニメくらいだし。
その結果、世代間が断絶した。
共同体が崩壊して、世代間で会話をしなくなったことも後押しした。今から構築するのは不可能だ。体験・記憶している人がいないのだから。つまり、日本は今後先の大戦を反省する機会を永遠に失ったんだと思う。そして、それは同じアジアの一員である中国や韓国と本当の意味での先の大戦の反省・総括をして、ともに前に進む道を失った、ということだ。
そこがドイツと違うところ。
(まぁ、ネオナチなど変なムーブメントはあるが。。)
この映画でも問われているのは「法治国家」の形だ。
現政権の森友問題や黒川問題、コロナ対応を見るにつけ、また人質司法や検察の公訴権の独占などの司法問題を見るにつけ、日本は「法治国家」の体を成していない。そして、今後はもっと酷くなるだろう。ドイツのメルケル政権と日本の現政権で、コロナ禍の対策を比較してみると違いは一目瞭然。戦後70年でここまで差が付いたんだな・・。
映画を観終わったあと、素晴らしい映画だったな、という感動とともに、日本人の体たらくを考えてかなり落ち込んでしまった。。。
しかし、映画自体は本当に良い。
コリーニ役の俳優フランコ・ネロ氏の演技も素晴らしい。めっちゃ渋くて良い役者。
サスペンス系が好きな人なら一見の価値があります。