「知られざる過去、知られざる法」コリーニ事件 Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
知られざる過去、知られざる法
新作ならなんでも飛びついてる感じで鑑賞
弁護士作家のベストセラー小説の映画化との事
感想としては
やや詰め込みすぎな割に地味なんですが
全体的には丁寧な作りで見応えがありました
あるホテルの一室で会社社長マイヤーが射殺され
犯人ファブリツィオ・コリーニ(フランコ・ネロ)
は逃げもせずすぐ逮捕
国選弁護人に新人のトルコ人弁護士カスパー(エリアス・エンバリク)
が初仕事でコリーニの弁護を担当することになります
その後カスパーは被害者が自らの幼少期の親代わり
今の弁護士の自分を成り立たせてくれた恩人であることを知ります
…いやそんな恩人ならすぐ気が付こうよ…
と思ってしまうほどこのカスパーという弁護士は
なんか抜けてます
カスパーは動機を探りますがコリーニは全く何も喋らず
このままでは終身刑になると説明しても変わらず
会社を引き継いだ旧知の仲の孫のヨハナは会社を引き継ぐ
にあたり早々に裁判を終わらせる方向で
弁護士としての師匠マッティンガーが裁判を担当し話が進みかけますが
犯行に使われた凶器がそう簡単に入手できない拳銃「ワルサーP38」
である事を疑問を感じたカスパーはコリーニの出生等を探ると
イタリアのモンテカティーニという村出身であるとわかり
恩師マイヤーがナチ親衛隊出身でパルチザンのテロの報復に
ランダムに選び出したモンテカティーニの村人20人を虐殺
その中にコリーニの父がいたことを突き止めます
つまりコリーニの犯行は復讐だったわけです
この事実にヨハナは恩師の過去を暴くカスパーを非難し
マッティンガーを通じて取引を持ちかけますがカスパーは
正義を貫くためたとえ恩師に不利になろうがコリーニの
弁護をやり切る決意をします
しかし裁判が始まるとコリーニが1968年にマイヤーを
告発しますがマイヤーの戦争犯罪を時効とし取り下げる判断が
既に下されたことをマッティンガーが明かし
その件を全然知らなかったカスパーは驚きます
…っていうかそういう履歴って資料に書いてなかったの?
カスパーは真面目で正義感に熱いですがなんか抜けてます
まそれはいいとして
そこでカスパーは当時の資料を調べ直すと1968年に施行された
「ドレーアー法」というナチスの「直接手を下さなかった」
虐殺等の「幇助」に関する罪が15年で時効になるという法が
存在することを知りその法案策定にマッティンガーも関与していた事を知ります
当事この法案に関してはあまり議会に関心を持たれず可決されていたようです
これによりコリーニの告発が取り下げられていたのでした
父を殺されたコリーニは姉もいましたが今回の犯行の
2ヶ月前にその姉は亡くなっており実力による復讐を決意したわけです
カスパーはマッティンガーに法の正義としてナチスの戦争犯罪を
法が守るのかと迫るとマッティンガーは降参しそれを否定しました
かくしてコリーニの行動の真相は明かされ求刑も情状酌量が認められる
ものになると思われますが…結末はあまりに悲劇的なものでした
調べるとドイツではこの小説がきっかけか
ナチスの戦争犯罪について再審議する動きがあり
90歳にもなる元ナチス出身者が場合によっては裁かれる
といった事が起こったほど影響があったようです
この作中でもヨハナが
あなたは祖父のおかげで弁護士になれたし
親衛隊にいたのも過去の話じゃないというセリフがありました
確かにそうなのですが弁護士という仕事はそれでも法の正義を
尊ぶ仕事であるという事をカスパーは実践したわけです
カスパーにとってはマイヤーとの過去は忘れないでしょうし
コリーニにとっては忘れることは絶対に出来ない過去だったし
その過去はカスパーもヨハナも知らない過去だった
このへんのすれ違いが印象的な作品でした
おすすめしたいです