「大切なことのためのルール破り」グランド・ジャーニー shunsuke kawaiさんの映画レビュー(感想・評価)
大切なことのためのルール破り
とある動物博物館に勤めるクリスティアン。彼は絶滅危惧種のガンを救うことに強い使命感をもっていた。ガンを卵からかえして、安全なルートで飛べるように渡りの手助けをし、そのルートを覚えたガンが自立に成功すれば数を増やしていくはずだと考えていた。
それを成し遂げるため長期の在宅勤務を申し出るが、国外に運んだガンをそこで離す許可を館長からえなければいけなかった。
だが、博物館の予算は厳しく館長は頑(ガン)として受け付けなかった。
そこで彼は国外のノルウェーでガンを離すための許可印を持ち出して、書類を偽造し、それを成し遂げようとする。
そこに別れた元妻との間にできた14歳の息子が父親と過ごす番のためにやって来る。クリスティアンは卵からかえったガンを息子と一緒に育てていく。疎遠になった父と息子がよりを戻していく感動がありそうなもんだが、そんな感じではなく、地味にガンを育てる事に集中した展開。息子のトマは自然豊かな場所にある父親の家に来ることに、つまらなくてうんざりしていたが次第にガンを育てることにハマっていく。そして父親と渡りの手助けの旅に出る。ここまでが前半。
ところが、文書偽造のルール違反をしてガンを離そうとしていたことがバレて、ガンはすべてノルウェー当局に没収されそうになる。ガンたちを救おうと頑張ってきた純真なトマはそんなことは許せない。お手製のプロペラ付きハングライダーでガンと飛び立ってしまう。ここからガンとの旅になるのが後半。
後半からニルスのふしぎな旅にあやかってか、映画全体がファンタジックな雰囲気に包まれていき、感動的な音楽も加わって、ガンと少年が一緒に空を飛んでいるどのシーンも美しく感動的に描かれる。その感動は映像自体の美しさや少年の純真なガンへの愛情がひきたたせているのは確か。ただ、それだけじゃないのがこの映画の特徴。
この少年も父親も二人ともじぶんがやるべきだと感じたらルールを破って突っ走るタイプ。
大切なことのためにならルールを時に破ったっていいんだっていう少し青臭いメッセージが根底にある。実はこれが感動を引き立たせる大きな要素となっている。
やると決めたらノルウェーのルールなんか無視して空に飛び立つ14歳の少年の勇気!本当に大切なことは時にルールを守ることでは達成できないし、のちのちそれが正しいことだったというのはYouTubeの拡散動画で世論が味方してくれる。本当に大切なことのためならルール破りもご愛嬌!
息子がガンと飛び立って行方不明になってクリスティアンは悲嘆にくれるが、それを知った元妻は気が気じゃない。破滅寸前の仲の二人が息子が無事にガンと生還したことに感動して一気によりをもどす。後半は雰囲気がファンタジックになるだけでなく、出来事もファンタジーそのものになっていく。
野生のガンと違って人間が手助けしたガンは自力で渡り鳥になることは難しいという話が出てくるなかで、クライマックスで、ガンたちがノルウェーにちゃんと戻ってきたシーンとその後のクリスティアンが館長に祝福されて晴れて博物館職員に復帰するシーンが少し出来過ぎな気がするが、やはりこの辺のシーンはハッピーなファンタジーそのものだったと思う。