「とてもよくまとまった印象をうけた」ぶあいそうな手紙 葵須さんの映画レビュー(感想・評価)
とてもよくまとまった印象をうけた
老いや孤独と縁遠くそれらを無意識に恐怖している若者は見ないだろう作品。自分にとって『孤独』は重なる部分があるから興味を惹かれた。普段こういう現実におけるリアルな私生活を描いた作品(日常もの)は自分が現実逃避として嗜む創作媒体として映画やアニメ、小説で好き好んで見ることはない。しかし、DVDのジャケットに写るエルンストとビアの二人の剽軽でありつつもコントラストのある『でこぼこコンビ』としてのビジュアルと、タイトルから連想される頑固な爺さんが人の温もりを伝達する手紙をどうしていくのか気になり借りて視聴する事となった。
手紙の代読を題材とした作品としてヴァイオレット・エヴァーガーデン(アニメ、2018年1月 - 4月放送)があり、それを連想する作品であった。時期を調べるとヴァイオレット・エヴァーガーデンの放送後の2019/10/4釜山国際映画祭で公開となってはいたが、映画作成にかかった時間を考えるとおそらく影響を受けたわけではないと思う。
内容は、頑固なお爺さんであるエルンストが個性があり手癖が悪く彼氏に問題を抱えていながらも人間性の奥深いところに例えば気持ちを伝えるのにためらわない素直さを持ったビアと出会い、最初はお互い利用知合うような形ではあったが、徐々に信用していく。エルンストはビアの『人に率直な気持ちを伝える』力に促されて自分の中でカチカチになってた頑固さを克服していく。ビアとの手紙という人に気持ちを伝える共同作業を行う中で、エルンストは孫や息子に自分の本心を伝え、ラストでは昔愛していたルシアの家に行き着くことができた。
この変化はビアがなければ起きなかった。普通は人は自分の固定観念に飲まれて変化できず、自分の今のカチカチな思い込みに支配されて身動き取れず終わっていく。いかに人との出会い、人とのコミュニケーションの中で自分の持っていないものを補っていくことが価値あることか、自分の内に秘めた思いを他人に伝えることが大切であるかを教えてくれる作品。
この作品をみて印象に残った二点として、ポルトガル語では「乾杯」を「ティンティン」ということを知ったことが一点。もう一点は映画の舞台ブラジルでは路上で『叙情詩テロ』という集会が社会的に抑圧された人々によってどうやら行われているらしいという事。社会を風刺するラップバトルに似たものだと思うが、そういう集会を詳しく知らないのでもっとその文化についてドキュメンタリー等で知りたいと思った。