「勝ち負けじゃない」暗数殺人 KinAさんの映画レビュー(感想・評価)
勝ち負けじゃない
ため息の尽きないサスペンス。
救いようのない殺人犯、カン・テオと、地味に執着心の強い刑事、キム・ヒョンミンの静かな攻防。
「なぜ余罪を自白したのか?」
「なぜ公的な場では否認するのか?」
「誰が殺されたのか?」
頭のキレる殺人犯の言動が、捜査と作品全体を掻き乱していく。
一つ一つのアクションに苛つきは募るばかり。
まんまと手の内で踊らされているように見えるキム刑事に対してもモヤモヤしてみたり。
一進一退を繰り返しながら少しずつ見えてくる殺人犯の所業とその目的。
あまりにも自分本意なそれらに頭が痛くなった。
きっかけとなる過去の傷がまた憎い。そんなの言い訳にもならないけれど。
姉の流した涙の重さにまた一つため息。なんかもうほんと、やりきれないよ。
淡々とした態度の影に固い意志とたしかな熱さを持ち、
捜査を続けるキム刑事。
愛する人を突然失う気持ちは自らも味わっている。
湿っぽく分かりやすいドラマは省きつつ、時折胸にグッと迫る台詞を吐くのがとても印象的かつ象徴的だった。
派手な仕掛けは無いものの、シンプルな心理戦にスリルを感じ、撹乱される捜査と深まる謎に翻弄される面白い映画だった。
観賞後に残るムワ〜ッとした嫌な気持ちもまた良し。
殺人事件がスッキリ解決!なんてそんなこと、絶対に無いのよね。
カン・テオの異常性はかなり魅力的だったので、そこにもっとフォーカスを当てても面白かったのかなと思いつつ、変に飾り立てしない堅実なつくりがしっくり来る映画なんだろうなと思いつつ。
「暗数殺人」というタイトルの意味が興味深かった。
新聞に載りメディアに流れる事件の裏で、いったいどのくらいの人が誰にも知られず命を奪われ傷付けられているんだろう。