「そこに在るはずのものが、見えなくたっていいじゃないか。分からなくたっていいじゃないか。」現在地はいづくなりや 映画監督東陽一 だい茶さんの映画レビュー(感想・評価)
そこに在るはずのものが、見えなくたっていいじゃないか。分からなくたっていいじゃないか。
小玉憲一監督による、名匠東陽一監督への尊敬と愛情がたっぷりと詰まった、「小玉さん」と「東さん」とその新旧の仲間たちのごく私的で、なおかつリラックスして鑑賞できて時にクスリと笑いが漏れてしまうような、でもこんな「今」だからこそ学ぶところの多い、質の高い言葉が並ぶタイムリーなドキュメンタリー映画でした。
観客を選ぶかと思いきや、むしろ東陽一作品を知らない若い世代にこそ観てほしいと思いました。映画館を出たらきっと、若く勢いのある初期の不思議な映画、今ではもうあまり見られないような上手い役者たちの芝居とともに舞台となる街を活写した中期の作品、内外から高い評価を得た円熟期の傑作、と振り返りたくなると思います。(幸運なことに代表作品のいくつかはDVD化もされ、amazonPrime等でも試聴できるようです。)
映画に挿入された数々の東陽一作品のカットも、鮮烈な映像ばかり。頭にというか細胞にというか皮膚にというか、初見の時から刺さっていた名カットが目白押し。劇場には様々な世代が来ていました。小玉監督、東監督の次のテーマ、次回作品もとても気になります。二人の共通点は、音楽の趣味が良いこと、そしてその使い方がずば抜けて上手いこと。本作でも、素晴らしい演奏に触れることができます。
僕は映画を観ながら、そこに在るはずなのだけれど見えなかったもの、見えていなかったもの、そんなものがスーッと見えてくるような感覚になりました。でも、最後に得た読後感は、その見えていなかったようなものというのは、見えていなくたっていいじゃないか、或いは分からなくたっていいじゃないか、という清々しいような爽快な感覚でした。劇場に足を運んで良かった、と思える作品でした。