「ノーランの妥協なき映像的探究は、“映画の再発明”の域へ」TENET テネット 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ノーランの妥協なき映像的探究は、“映画の再発明”の域へ
ノーランは過去作で常に時間をテーマにしてきたと語られるが、ただ単に時間をいじってきたわけではない。一貫していたのは、映画内で流れる時間をコントロールし、その映像によって喚起される観客の感覚や思考を開拓、刷新していくことだった。
“映画内の時間”と映像に関して「TENET テネット」と最も関連があるのは「メメント」だ。冒頭、主人公が銃を撃つショットが逆再生され、床の空薬莢が跳ね上がり銃身に収まる描写がある。同作は10分しか保てない男の記憶を観客に疑似体験させるため、短いシークエンスを時間軸と逆に構成。それを最初に示唆する仕掛けとしての冒頭場面だったが、この逆再生による人や物の動きにセンス・オブ・ワンダーを感じ、「TENET テネット」に発展させたと考えられる。
逆再生自体は目新しくもないが、SF設定で時間を順行する者と逆行する者が同時に存在し、格闘や戦闘さえ行うという、前代未聞のアクション場面(CGを極力使わず、リバース動作の演技と逆再生映像を巧みに編集)を生み出した。人が目にするものを映像で再現する、編集によって時間を操作する(時間を飛ばしたり、過去に戻ったり)という映画黎明期の発明を、さらに進化させて新たな知的刺激をもたらす本作は、映画の再発明と評したい偉業だ。