劇場公開日 2020年9月18日

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「変則スパイ映画として楽しむ」TENET テネット tabletapさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5変則スパイ映画として楽しむ

2020年9月19日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

クリストファーノーラン監督作品はすべて視聴済み
そんなわけで本作も当然視聴

2時間半の視聴、エンドロールのあと照明が館内を照らすと
「難しい」、「こんがらがる」という視聴後のつぶやきがあちこちから・・・

私も実際楽しむためには頭を使うと感じたし、整理が必要と感じた
のでまとめていく(ほぼネタバレなし)

なお、諸々の細かい説明はパンフレットに図付きで書いているので
パンフレットは必ず買ったほうがいい。筆者は非常にいい仕事をしている。

[時間を逆行するギミック]
一般的なタイムマシンものは"離散的"に時間を移動する。
例えばバック・トゥ・ザ・フューチャーでは
デロリアン で 1985年から1955年 にタイムスリップする。
しかし本作は"連続的"に時間を移動する。

・・・というと難解になるので噛み砕くと
ある装置を使うと「世界の巻き戻し」がはじまるのである。
それはビデオを逆再生しているのと同じ要領で
逆再生している世界を舞台に主人公たちが活動するのである。

多少SF的知識があれば、CMの時点でわかっているだろうが
これは諸々の理由(例:光の方向)で科学的にありえないので

本作を楽しむには「理論的なことは脇におく」ことが重要
サイエンスフィクションというフィルターで見るのではなく
映画として視覚効果を楽しむことが大事

・逆行世界だと主観的未来での傷が過去の自分に現れる
・順行世界で逆行した攻撃を受けると逆行しないと傷が塞がらない
という描写は混乱するが、
これらは「優勢な時間の流れ」という概念があるので、
本作で優先される因果にはレベルがあるということだろう。

私は傷が再生するというのは、「元の状態に戻る」ということを示し。
逆行弾は「過去に向かって銃創ができる」ので、
因果が逆転して銃創ができた状態に戻り続ける、
だから再生しないのだろうと認識した。

[映画のジャンルについて]
CMの弾丸が弾倉に戻る表現から
視聴前は時間を逆行するアイテムを使ったSFアクション映画を期待していたが
実際に作中で表現されていたのは「巻き戻し」を活用したスパイ映画だった。

そう本作は完全なスパイ映画である。

潜入、特殊工具、銃撃、高級スーツ
カーチェイス、尋問
キッチンでの格闘、長い息止めアクション(これも今やスパイ映画のお約束)
各地を移動、大量破壊兵器の使用を阻止

視覚効果こそ斬新だが、スパイ映画として多くの要素がお約束に則っている。
巻き戻しという小道具が斬新すぎて難解に思うかもしれないが
巻き戻しを作中でどういう扱いにしたいか、ルールがわかれば
変則スパイ映画として楽しめるだろう。

[キャラクターについて]
斬新な視覚効果に思考力を持っていかれるので
バランスを取るためか人間関係はシンプルに表現されている
冒頭から主人公はかなり超人的な人間で
代わりにヒロインの人間的な部分の描写に多くの時間が割かれている
私はもう少し主人公の苦悩や決断を描いても良かったかと思うが・・・好みによるだろう

[ストーリーについて]
作中で表現されているのは全体像の一部であり、決戦に至る前後
そこに至るまでのストーリーにあれこれ想像をふくらませるのが楽しいだろう
実際私はそうして楽しんでいる。

[総評]
小道具の斬新さから多少の難解さはあるが、
タイムマシン映画+スパイ映画として解釈すれば問題なく楽しめる。
逆行のアイディア、映像表現は極めて新鮮で一見の価値あり。

本作のスクリプトドクターに最大の賛辞を。

tabletap