「【時間の順行/逆行のループ、TENET】」TENET テネット ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【時間の順行/逆行のループ、TENET】
作品のキャプチャーや、予告編でも明らかなように、この作品では、時間の逆行が重要な仕掛けになっている。
そして、もう一つ、映画のタイトル「TENET」が重要な示唆を含んでいるようにも感じる。
TENETは、作品の字幕では「主義」とされていたが、-ismとは区別して「信条」と訳されることが多い。
そう、この作品には、クリストファー・ノーランの独特な何か逆説的なテーマが隠されてるようにも感じるのだ。
(以下は僕の勝手な思い込みも含んだレビューで、一部ネタバレもありますのでご留意下さいな)
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映画のなかで、様々な意味で僕達を悩ます時間の逆行は、問題解決のツールとして扱われる。
ほんの一瞬から、スタルクス12の爆破事故までの長い日数を遡ることもある。
時間が順行する中で、過去の自身の作戦行動と交錯し、同一人物同士が鉢合わせするパラドックスの危機が起こり、プルトニウムをめぐるカーアクションにも目が離せない。
エンディングの前、スタルクス12の順行部隊と逆行部隊の作戦行動では、時間の逆行を一瞬、順行部隊に先に見せることによって、作戦を成功に導こうとするのだが、ここが一番、ツールとしての時間の逆行が理解しやすいところだと思った。
あと、個人的には、キャットがダイヴする場面で、もしかしたら、自分が未来から来た自分を知らずに眺めていることもあるのかと、ベタなSF感もあって良かったと思う。
前段で、時間の逆行は、問題解決のツールだと書いたが、同時に世界を滅ぼす可能性も秘めていた。
科学者の探究心が致命的な結果をもたらすのは、核兵器の父と呼ばれるオッペンハイマーのエピソードからも明らかだ。
この世界の破滅を食い止めるのが、「名もなき男」の使命だ。
ただ、こうした壮大なSFの仕掛けやアクションが展開するなか、映画が、旧ソ連の核実験施設を巡る話に触れることで、実は別のテーマが込められているのでと意識させられるようになる。
それは、主義や信条、つまり、TENETが、僕達の現実の世界の中で、いとも簡単に時間を遡るように元に戻ってしまう危うさを秘めていることだ。
ソ連は崩壊したが、そのあとを継いだロシアは、ロシア人の保護を盾に、クリミアに侵攻したり、ウクライナ国境での軍事行動を展開したりしている。
第一次世界大戦の反省の上に「民族自決」が唱えられた結果、ナチスドイツは、ドイツ民族の保護を名目に東欧やオーストリアを併合し、第二次世界大戦を引き起こした。
同じだ。
歴史は繰り返すと言うが、類似した出来事が発生しても、過去の学んだ知恵で、人間はこれを克服するという意味で使われていると思っていた。
しかし、世界の現状を見ると、決してそんなことはないことに気が付く。
イラク戦争を見る限り、アメリカも過去に学んでいたとは決して思えない。
オバマとプーチンの間で合意され、オバマのノーベル平和賞の受賞理由となった核兵器削減は、既に反故にされたも同然で、米露はお互いの主張を譲ろうとせず、核兵器再拡大のリスクも高まっている。
人権を蔑ろにし、差別を助長しようとする行為が散見されるようになったことは、人間が長らく培った民主主義や平等、人権などの価値観を大きく揺さぶってもいる。
時間の逆行が、映画のなかで問題解決のツールになり得ても、僕達の現実の世界では、様々なTENETが自ら過去の価値観に回帰しようとすることで、問題解決は遠のく一方なのだ。
「こんな世界にしてしまったのは人間なのだから、この世界を終わりにさせる」というセイターの言葉は、アベンジャーズ のサノスにも通じる破滅的主張で、何の解決策も提示していない。
エンディング、ニールの雇い主が、未来の名もなき男だったことが明らかになる。
名もなき男とニールは、世界を救うために、永遠に同じ時間のなかをループし続けるのだろうか。
逆説的だが、まるで、僕達の現在の世界で、様々なTENETが現在と過去の価値観のなかで行ったり来たり揺れ動いているかのようでもある。
実は、僕達がするべきことは、時間を逆行させるのではなく、過去の価値観に逆行しようとするTENETを元に戻すことなのではないのか。
そして、一度引き戻せたとしても、また、TENETは逆行しようとするに違いない。
セイターやシンがいない世界では、セアターやシンを過去で救おうとする者が必ずいるだろう。
こうした、綱引きのような、何度も引き戻そうとする行為は、名もなき男とニールが同じ時間のなかでループするようなものかもしれない。
しかし、去って行くニールに悲壮感はなかった。
名もなき男と共にいずれ世界を救えると確信しているかのようだ。
実は、映画のなかの「名もなき男」とは、僕達自身のことではないのか。
解決策は簡単ではないだろう。
しかし、世界を救えるのは僕達自身なのだと言っているのではないのか。
だから、「運命なのか?」という問いに「現実だ」という回答だったのではないのか。
「運命」として受け入れるのか。
「現実」として対処するのか。
どちらも決めるのは僕達なのだろう。
そんなことを考えながらの鑑賞だった。
ワンコさんのレビュー どれも深い洞察力で感心してしまいます。私のような拙いレビューに共感を ありがとうございます😅
そうかもしれませんね。私達は前に進もうと思いながら 実は過去の誤に戻ってしまう危険性を常に警戒するべきなんでしょうね!