「2人の主人公」アリ地獄天国 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
2人の主人公
「コロナ禍」で、ミニシアターは苦境にあるようだ。
しかし、「観に来て下さい」と大きな声で言えない厳しさ。(ただし、そのために、どこも今や「密集」はなさそうだ。)
自分も神経を尖らせながら、「不要不急」の誹りを覚悟の鑑賞である。
とはいえ個人的意見だが、鑑賞中は「密接」がなく呼気の絶対量も少ないので、映画館そのものは、「密集」して顔が正対しがちな電車に比べれば、けっこう安全に思える。
むしろ映画のために、都会を長時間移動することが大問題だろう。
映画は、2015年1月に主人公の“西村さん”が、営業中の自動車事故で、不当な弁償金を会社から要求されたことに端を発する。
“独自のルール”を押しつける“ブラック企業”に対し、個人で加入できる組合「プレカリアートユニオン」で団体交渉したところ、シュレッダー係にされるとともに嫌がらせを受け、給料も大幅に下がる。
それまでは、残業でボロボロになっても“独自のルール”に従い、部下にも要求していたというが、完全に変わってしまった。
作品は、2018年2月まで“西村さん”に密着し、裁判、団体交渉、そして、組合による抗議の街宣を映し出す。
2015年10月の街宣の際には、会社側の衝撃的なヤクザ的振る舞いが動画で拡散し、自分もその動画でこの件を知った。
その他、差別的な採用基準も明かされる。“ブラック”どころではない。
この作品の素晴らしいところは、一つは時系列も含めて、非常に分かりやすいことである。
背景や状況の進展、そして結末まで、何が起きているか分かる。“西村さん”側の一方的な主張だという、会社側の反論がナンセンスなことが理解できる。
例えば、会社は「度重なる遅刻」と主張しているようだが、すさまじいサービス残業時間をどう説明するのか?
また、監督自身の思いが、しかるべきタイミングで、しっかり込められていることも、観る者の胸を熱くする。
“ブラック企業”で苦しむ友人“やまちゃん”の撮影を断って、自殺を救えなかった悔恨。つまり、この映画には、もう一人の“隠れた主人公”がいるのである。
しかし、映像は感情に流されず、事実を伝えることに徹している。
この映画は、平時における“ブラック企業”による法令違反行為を扱っており、「コロナ禍」による“合法的”な雇い止めや失業に対して、直接的な関係は無い。
しかし、直近でも「サイ○○○でコロナ助成金の「不使用」が問題に」というニュースが出ている。
個人が組合に入って団体交渉することの顛末が、形ある映像として記録されているというのは、意義のあることだと思う。