「雪の様に降り積もり、静かに溶けている二人の思いを淡々描かれた作品です。」るろうに剣心 最終章 The Beginning 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
雪の様に降り積もり、静かに溶けている二人の思いを淡々描かれた作品です。
「るろうに剣心 最終章」の「The Beginning」を鑑賞しました。
「The Final」も鑑賞しているので、やっぱり観ない事には始まらない。
都内のシネコンも時短営業とソーシャルディスタンス体制ではありますが、とりあえず無事に営業しているので近所のMOVIX亀有で鑑賞。
で、感想はと言うと…面白い。
じっくり、しっとりと剣心(抜刀斎)と巴の物語を描いています。
大掛かりなアクションも少なめで魅せる事よりも語りかけるといった感じでしょうか?
原作の「追憶編」をベースに劇場版の前日譚のお話で、剣心(抜刀斎)が何故、人斬りとして活動し、何故不殺の誓いを立てたのか?また左頬の十字傷の謎が描かれていますがとにかく剣心と巴の出番がめちゃくちゃ多い。
前作とは打って変わって、登場人物も少なめ。
なので、人物描写が物凄く深い。
剣心のもう一つの顔と過去の人斬り抜刀斎として、じっくり確りと描かれている。
また、巴役の有村架純さんが良いんですよね。
二人の物語が静かに雪の様に降り積もる思いが感じられます。
この二人の物語としてじっくりと描かれていて、見応えはあるんですが難点で言うと「るろうに剣心」シリーズのラストとしてこれで良いのか?と言う点。
時系列で言うと前作の「るろうに剣心 最終章 The Final」がラストなんですが、あの終わり方は些か物足りない感じ。
「The Final」を観た時に「The Beginning」があるからと気にしない様にしてましたが、全てを観終わって思うのは、どちらの終わり方も大団円に相応しいとはちょっと言い難いんですよね。
前日譚である程度結末が分かっている分捻りも難しいし、その後の剣心と仲間たちとの明るい未来に報われる分、対比をつけるかの様に暗く影を落とす様な感じは致し方なしなんですが、結末としては弱い。
作品の出来は申し分無しなだけにちょっと物足りないと言うか、消化不良な感じがします。
個人的には「The Final」で確りと大団円で締めて、「The Beginning」はスピンオフというかオマケ的に、より「るろ剣」の世界を愛せる様な位置付けの方が良いかと思うんですが如何でしょうか?
大友啓史監督はるろうに剣心の劇場版を全作担当され、今までの作品ではアクション派手めのある意味「表の部分」でのるろ剣を描かれてきた分、人切り抜刀斉としての影の部分を描かない事にはるろうに剣心は完結しないとの思いが強くなっていったのではないかと。
だからこそ、今作は今までの作品と対を成していると解釈してます。
ただ、出来れば現在連載中の「北海道編」が最終章の公開前に終わっていると収まりが良かった感じですが、現在も連載中なだけにいろんなタイミングが少しズレてる感じが残念かな。
また、ここまでの作品を観ていないと分かり難いと言う点も難点と言えば難点。
ある意味、今まで観てきた人達へのボーナストラック的な感じがしますし、今作だけを抜き取って鑑賞してもちんぷんかんぷん。
巴の立ち位置や剣心の心理描写が理解し難い分、なかなか難しい作品ではあります。
それでもこの「The Beginning」は回想シーンでも神谷薫や相楽左之助、恵や弥彦を安易に出さなかった事は個人的には良かったかなと。
それにより「The Beginning」の世界観がかなりの精度で確立している思うんですが、幼い時の縁が剣心に憎悪の牙を剥くエピソード的なのが少なくて、とりあえず出しました感になってるのは残念かと。
また、出来るなら巴との別れからの約10年の間での不殺の誓いまでを描いて、本編に繋がるまでを観たかったかな。
それでは長きに渡って製作されたのはやっぱり原作の面白さがあっての事ですが、映画としての面白さも確立した稀有な作品。
話題の作品で沢山の人が鑑賞していると思いますが、前作の「The Final」が都市部の緊急事態宣言でシネコンの上映が禁止とかなり手痛い感じでしたが、そんな逆境も跳ね返せるだけの見応えはある作品です。