劇場公開日 2020年8月28日

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「権力を国民の手に取り戻すのだ」オフィシャル・シークレット 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0権力を国民の手に取り戻すのだ

2020年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

 改めてジョージ・ブッシュ(息子)は最悪の大統領だったとつくづく思わせる作品だ。そしてそれに付いていったトニー・ブレアもまた最悪の首相であった。そしてこの二人のチンピラ政治家の足元で尻尾を振っていたのが小泉純一郎である。明治以降一番情けない総理大臣だと思っていたが、まだ大統領に就任もしていないトランプに早々とへーコラしに行った安倍晋三には驚いた。情けないを通り越して日本の恥となった。
 しかし世界はアホな指導者を戴くアホな有権者で溢れている。特にアメリカは自国を世界一の国だと思いこんでいるフシがあり、歯向かう国があれば徹底的に叩こうとする。CIAはそのために裏で動いている。たとえ大統領がオバマになっても、その辺は変わらなかった。イギリスのMI6にも同じような傾向がある。諜報機関の怖さを知っているのが自民党の中枢にいる人々で、歴代の自民党政権は悉くアメリカに従順であった。
 もしアメリカの政権に逆らおうとしたらどうなるか。それは沖縄の米軍基地を排除しようとした鳩山由紀夫がどうなったかを見れば明らかである。違法でもないことで政治資金の問題を追求されて総理大臣を辞めることになった。同じ基準で言えば安倍晋三は10回以上も辞任しなければならなかったはずだ。ところが「責任を痛感する」を連発して誤魔化し、歴代最長になるまで総理大臣を続けた。大臣室で100万円を受け取ったとされる明らかに受託収賄の大臣は、しばらく姿をくらましていたら、しれっと復帰している。検察も含めて殆どの官僚もまたアメリカの方を向いて仕事をしていることの証左である。民主主義の理念に背くことを悩んだ近畿財務局の赤木俊夫さんは稀有な存在だ。政治家も官僚も民主主義が国民主権であることを忘れ、権力を私物化しているのが世界の政治の実態なのである。

 キーラ・ナイトレイはやっぱり上手い。演じたキャサリンは、政権が歯向かう者に対してどれほど冷酷で陰惨な仕打ちをするかを思い知らされ、怖さに震える。普通の庶民の反応としては至極当然なのだが、映画のヒロインとしては物足りないし情けない。何のためのリークだったのかと思ってしまうほどだ。このあたりの演技はピカイチだ。
 しかしキャサリンはそのままでは終わらない。人間には慣れというものがある。幽霊もスカイダイビングも慣れたら怖くなくなる。もちろん危険が減る訳ではないが、動揺や恐怖が減じて冷静さが増す分、対処がより現実的になる。簡単に言うと強くなるということである。キャサリンは強くなり、彼女に影響されて夫も強くなる。怯えて縮こまっていた二人は周囲の応援と協力者の力を借りて立ち上がる。権力を国民の手に取り戻すのだ。
 政権は法を盾にして民衆を弾圧するから、庶民も法によって政権と闘うしかない。しかし法というものは人間が作ったものだから、解釈によっては適用が異なる。安倍政権のように都合よく解釈すれば何でもありだが、イギリスは流石に法治国家であり、無理な解釈で法を歪めることまではしない。
 前半のヒリヒリする緊張感から、後半は政権と庶民、民主主義のあり方、そして法を用いた政権との戦い方について、考えながら鑑賞することになる。とても見応えのある作品だった。

耶馬英彦