劇場公開日 2021年3月26日

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「すねかじりの筋金入り」ロード・オブ・カオス レントさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5すねかじりの筋金入り

2023年10月3日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

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興奮

ノルウェーと言えば、民主主義ランキング一位、報道の自由度ランキング一位と、万年下位に甘んじている日本にとっては憧れの北欧の国。そんな国でもこんなバカな事件は起こるんだというお話。

元々この辺りでは北欧神話が人々の信仰の対象であり、異教徒であるキリスト教による侵略を受けた歴史は最近の映画「ノースマン」でも描かれていた。
だからこそ北欧では反キリスト教的な考えが根強いのかもしれない。アンチキリスト教としての悪魔崇拝。でも結局はその崇拝した悪魔によって身を亡ぼすというお話。

音楽にさほど興味がない自分としてはヘヴィメタルもブラックメタルも違いなんてわからない。とにかく頭振り回してロン毛を振り乱して激しい音で騒ぎ立ててるような。
音楽で有名になりたいんなら、純粋に音楽だけで勝負すればいいものを何かと目立つために過激なパフォーマンスを続けてそれに歯止めが利かなくなり、メンバーの死を招いてしまう。普通に考えたらデッドの死は止められたはず。それがライブで受けたもんだからリーダーのユーロニモスは危険な行為も容認してしまう。
それどころかバンドを売るためにデッドの死体を撮影してジャケット写真として利用する悪乗りっぷり。メンバーの一人はあきれて脱退する。
ただ、いくら悪魔崇拝者といってもすべては売れるためのハッタリだった。真の彼はデッドの遺体を前にして泣きじゃくる普通の青年だった。彼はこの時点でまだ引き返すことができた、悪魔の誘惑に飲み込まれずに。
だが、勢いでメンバー同士がどれだけ過激なことをやれるかとたきつけてしまったもんだから、魔に受けた、もとい真に受けたメンバーたちの行為は過激度を増して殺人まで犯してしまう。
ヴァーグなどは更に過激になり、有名な大聖堂に放火しようと言い出す。そんな状況でも権威ある音楽雑誌に取り上げられてしまったがために彼らを利用しようとする。しかし自分たちばかりを利用し何もしない彼に反感を覚えたヴァーグは反旗を翻す。最終的にはユーロニモスはヴァーグに惨殺されてしまう。

彼らはノルウェーに住むごく普通の青年たちだった。悪魔だなんだと虚勢を張ってはいるが、親と同居するただのすねかじりだった。

所詮ハッタリとわかっていながらも集団内部で相乗効果が働き、とんでもないことを引き起こしてしまう。これはどこの国にでも起こりうる、条件さえそろえば。

米国議会襲撃事件を扇動した極右団体プラウドボーイズはその半分は最初からハッタリで襲撃する気なんかなかった。それが彼らに煽られた人間が実際に襲撃してしまい、五人もの犠牲者を出した。
日本ではオウム真理教によるテロ事件などもそうだ。信者一人一人はいたって普通の大人しいまじめな人間ばかりだ。それが教祖に扇動されて恐ろしいことを何の躊躇もなく実行してしまった。

個体では大人しいバッタやイナゴが群れになったとたん狂暴になり農作物を荒らしまわるように、人は群れると一人ではできなかった大胆な行為ができたりする。集団が生み出すそういった空気が人間の心の中の悪魔を降臨させるのかもしれない。

レント