「ルサンチマンをあっさり飲み込む退屈さが純粋な青年達のルサンチマンに薪を焚べる様が壮絶に痛ましいメタリック青春惨禍」ロード・オブ・カオス よねさんの映画レビュー(感想・評価)
ルサンチマンをあっさり飲み込む退屈さが純粋な青年達のルサンチマンに薪を焚べる様が壮絶に痛ましいメタリック青春惨禍
1987年、ノルウェーのオスロ。妹思いの少年オイステインくんは“ユーロニモス”と名乗り、自宅地下の居間で自身のバンド“メイヘム”の練習に励むギタリスト。“メイヘム”は壮絶なデス声を持つボーカリスト、“デッド”を加入させると、ステージで自らの体を切り刻むデッドの過激なパフォーマンスで熱狂的な人気を集めるようになる。しかしデッドの正体は少年期に壮絶なイジメを受けたトラウマを持つ繊細な青年ペルであり、始終死に取り憑かれた彼はついに自殺してしまう。デッドの死によってメイヘムはより過激なカリスマとなり、自身のレコードショップとレコードレーベルを立ち上げたユーロニモスの元にメイヘムに影響を受けた少年クリスチャンが訪ねてきたことで、血塗れのブラックメタル史が暴走し始める。
ブラックメタルが台頭してきた時期にはメタルをあんまり聴いていなかったのでリアルタイムには知識がありませんでしたが、『メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー』や『ライト・テイクス・アス 〜ブラックメタル暗黒史〜』といったドキュメンタリーでメイヘムのメンバーが繰り広げた凶行の数々は知っていましたし、“ヴァーグ”ことクリスチャン本人の言動も聞いていましたが、なぜ彼らがそんな凶行に及んだのかを虚実織り交ぜて描いたのが本作。まずとにかく胸が痛いのが彼ら自身は物凄く繊細で家族思いの優しい青年達だということ。悪魔崇拝を標榜してはいるもののそれは表面的な虚勢に過ぎない。若さゆえに渾々と湧き溢れるルサンチマンを表現する手段として彼らは大音量で楽器をかき鳴らすが、その轟音をも受け流す北欧の懐深さと退屈が彼らの暴走に薪を焚べる。淡々とバンド練習に明け暮れ仲間と戯れ合っている時期の彼らはかつての自分達とほぼ同じで、お互いに虚勢を張っていることを悟られないように戦々恐々としている様は当時のVHSを見せつけられているかのように微笑ましいが、カッコだけの人間、“ポーザー”と呼ばれたくないがためにお互いを煽った結果として逃げ道のなくなった人間が犯した取り返しのつかない凶行に激しく怯え、でもやはり見下されたくなくて虚勢を張るという悪循環が延々と繰り返される様は見つめ続けるのが辛い。そのいたたまれない切なさに呼応するようにこれでもかと繰り返される刺殺シーンは尖端恐怖症の私には地獄の責苦。R18+というレイティングも納得の凄惨さですが、一方で青春映画特有の爽やかさ微笑ましさも仄かに薫るなんとも不思議な作品。
さりげなく2世俳優が目立つ作品で、短い出番ながら鮮烈な印象を残すデッドを演じたのがヴァル・キルマーの息子ジャック・キルマー。ステラン・スカルスガルドの息子ヴァルター・スカルスガルドも出ています。こんな映画ですからサウンドトラックもメタル一色。個人的にはDioのStand Up and Shoutが使われたのが嬉しくて、Scorpionsが激しくディスられてたのがちょっと悲しかったです。