「デンマークはセンスがいい」罪と女王 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
デンマークはセンスがいい
児童保護の弁護士をしている主人公アンナが、被害を訴えている未成年者への助言や加害者側への憤りをみせる前半。その裏で新しく家に来た義理の息子でやや問題児でもあるグスタフと心を通わせ始める。
それが次第に児童を守る立場だったアンナが自分でもよくわからないうちに加害者側へと落ちていく様はとても面白い。
しかも終盤では、自らが憎んでいたであろう加害者側が言いそうなことまで言い出す始末。
結局全ては、弁護士としての仕事ですら自分の欲求を満たすためだけのものだったのか。アンナの女王としての気質は揺らがない。
作中で読まれる不思議の国のアリスの中の女王のように彼女は絶対なのだ。女王が首をはねよと言えばはねられる。相手の是非は関係ないのだ。
「私と、犯罪歴のあるあなたの言葉、どちらを信用するかしら」は酷く恐ろしくおぞましいものを見た気がした。
信用してもらえなくてもあなたの行動が次の被害者を救えると助言していたアンナ自身が口をつむぐ事を迫る場面など、前半と後半で対になっていく展開も秀逸だ。
本作はデンマークアカデミー作品賞受賞作だ。これを作品賞に選べるデンマークはセンスいいなとしか言えない。
日本アカデミー賞などはスポンサーの意向で選ばれるので何の価値もないから余計にデンマークを羨ましく思う。
最後まで観て、問題のある子どもと社会的地位のある大人の言葉、どちらを信用するのかという問いかけだったわけだが、行き過ぎると悪意ある子どもに遭遇した時にまた問題になるよなと思った。
その疑問に「偽りなき者」じゃないの?と妻は答えてくれた。もう納得しかなかった。
「偽りなき者」もデンマークアカデミー作品賞で、興行的にヒットもしたらしい。
やっぱりデンマークはセンスがいい。
もしまだ観ていないのであれば「罪と女王」とセットで「偽りなき者」も観て欲しい。いやむしろセットで観るべき作品だと思う。
となると、犯罪歴があるから信用しないとか、地位がある大人だから信用するとか、信用するかしないかの基準を相手の人間性や立場で決めてないか?という問いかけだったわけか。
なんか怪しいとか、嘘くさいとか、そんなふわふわした感覚ではなくしっかり真偽を見極めろと、児童虐待だけではなく全ての人に通じる、考えなくなった現代人への忠告なのか。
うむ、やはりデンマークはセンスがいい。