「濃密で素敵な作品でした」小説の神様 君としか描けない物語 あおねるさんの映画レビュー(感想・評価)
濃密で素敵な作品でした
この作品を鑑賞して、やっぱり橋本環奈さんは口調が強気な役が似合うなと思いました。
ご本人も性格的に本当の自分を隠さず正直者で、少し男っぽくて無理に女性らしくしない印象があるのでハマり役だと感じました。
主人公の千谷はデビュー作がヒットし名の知れた小説家になるもその後が上手くいかずスランプに陥っており、自尊心が低く小説なんて何の力もないと自分に憧れる後輩に暴言を吐いてしまうんですよね。
そんな時部室に現れた橋本環奈さん演じる小余綾に、叱られ何度もビンタされます。
彼女は実は有名売れっ子小説家の不動詩凪であり、誰よりも小説を愛しているため、小説の力を馬鹿にする千谷が許せなくてビンタをしました。
出会いこそ最悪だったものの、ひょんなことから二人は小説を共作することになります。
千谷は強気な彼女に押され気味な時もありながら、小余綾もまた彼に眠る才能を評価し、二人は徐々に小説の完成に向けて協力し合っていきます。
小余綾は千谷の作品が好きだと言い、デビュー作の続編を書くことを勧める。小余綾に背中を押され、途中まで書き進めていた続編を出版社に持ち込み良い評価を得て喜んだのも束の間。一転、会議で作風が現在の流行に合っていないなど続編の出版を却下されたことを伝えられた千谷は自信を失い塞ぎ込み、学校へも顔を出さなくなる。
小余綾は「あなた自身の小説を嫌いにならないで」と千谷を懸命に引き止めるが、これをきっかけに千谷と小余綾はすれ違う。
そして千谷は共作だけでなく、小説家自体もやめると小余綾に告げる。
ある日小余綾は小論文テストの授業の最中にパニックを起こし意識を失って倒れてしまう。
運ばれた保健室で小余綾は千谷に、何かを伝えるために文字を書こうとすると頭が真っ白になって、体が凍り手が震え、小説を書けないということ。
そしてその原因となったのが彼女が今まで書いた小説に対する読者からのネット上の攻撃や待ち伏せ、それがだんだんとエスカレートしていったことが原因であることを告白し、彼女がなぜ自分で小説を書かないのかを不思議に思っていた千谷は、ここで初めて彼女の秘密を知ることとなる。
しかし彼女が一番傷ついていたのは、自身が尊敬する小説家舟城のファンが、普段舟城の小説に対しては温かいコメントを残しているのに対し、自分の小説に対し過度にバッシングを繰り返していることであった。
自分が小説を書けないことを理由に千谷を利用していたことを謝り、文字すら書けない、プロットさえも書けなくなった小余綾は今が潮時だと口にする。
ろくに生活費を入れず部屋にこもりきりで小説を書くことに没頭し、心臓病であっけなく亡くなってしまった父と結婚したことを後悔していないかと母にたずねる千谷。母は父と一緒になったおかげでこんなにも立派な息子を育てることができたと誇らしげに答える。
そして親友に励まされたことで父からの「小説には人の心を動かす力がある」という言葉をもう一度思い返し、千谷は小余綾に「また小説を書かせてほしい」と電話で強く思いを伝え走り出す。
弱りきった彼女に千谷は、彼女自身が物語を愛する気持ちを忘れられるはずがないこと、これからも書き続けなければならないことを伝え、今も小説の神様を信じているかと問う。
千谷が小余綾の心を突き動かし再び二人は共作を再開する。最後に彼女は、出会った時に答えられなかった千谷からの「小説は好きか」の質問に「小説が好き」と笑顔で答えて幕を閉じた。
このラブストーリーとも違う、完全に小説をメインに置いた内容とテンポが心地よく、またそれぞれが抱える小説に対する葛藤がうまく表現されていてとても良かったです!