「だれも寝てはならぬと言ったのに…。」パヴァロッティ 太陽のテノール 茉恭(まゆき)さんの映画レビュー(感想・評価)
だれも寝てはならぬと言ったのに…。
神に与えられし才能とは、容姿や声や音楽センスだけに在らず、
その環境がほとんどだといつも思う。
たとえばビヨンセが貧困家族の中で生まれていたら、
たとえばメッシがサッカーとは無縁の環境で育っていたら。
ルチアーノもまた、親に恵まれた。
背中を全力で押してくれる仲間に恵まれた。
だから彼は太陽でいられた。
そう確信したドキュメンタリー作品だった。
今回、大好きなロン・ハワードが監督をやるということで、
どんなことになるのか相当ワクワクしていたけれど、
なんと彼の得意な美しい映像はほとんどなく、
ルチアーノの歌=美しさに焦点を絞り切った作品となった気がする。
そうさ、美しさを語る時、余計なものは一切要らない。
そんなコメントが聞こえてきそう。
そして殆どの方が彼の十八番「だれも寝てはならぬ」の部分や、
三大テノールの映像を評価していたけれど、
私は彼の最後の舞台に一番心を揺さぶられた。
年老いて、高音も出なくなり、声に張りもなくなったと誰もが酷評した後の、
あの圧巻の歌唱力と表現力は言葉では言い尽くせない。
日々、老いるという恐怖に怯えながらも、
自分自身を信じ切って到達した、まさにあそこが頂点なんだと感じさせられた。
私もたったひとつの優れた才能と恵まれた環境で、
重圧に耐えながら慈善事業して朽ちていきたかった。
さようならルーチェ(伊語で光)。
もう一回ドルアトで観に行こうと思う作品。
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きりんさんのコメント
2020年12月7日
宿命の“声の衰え”のステージ。
見ればオーケストラボックスで指揮をしてライバルを支えているのはドミンゴ。盟友ドミンゴのルチアーノをまっすぐ見つめる眼差しに、僕は泣いてしまいました。
突然のコメント失礼しました。