「【”アレッポの悲劇”を風化させない意義ある作品。アサド政権とロシア空軍が行った、人道上卑劣極まりない事を世に明らかにした作品でもある。】」娘は戦場で生まれた NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”アレッポの悲劇”を風化させない意義ある作品。アサド政権とロシア空軍が行った、人道上卑劣極まりない事を世に明らかにした作品でもある。】
シリア革命(のちに内戦という言葉になってしまう・・)を描いた映画は幾つかあるが、この作品ほど彼の地で実際に何が起こっていたのかを雄弁に語る映画を知らない。
反体制派が、一枚岩になれずイスラム過激派のような組織の介入を招いてしまった事も事実だ。
そして、一部の反体制派の非道な行いがアサド政権を強硬姿勢に向かわせたことも事実である。
だが、アレッポの一般市民は、彼らの思惑以上に拡大、激烈化していく内戦の完全な被害者になっていく。
今作をスマートフォンで撮影し、監督したワアド・アルカティーブと、後に彼女の夫となる医者ハムザが私たちに訴えかけてくる事は重い。
サマ(空という意味だそうである・・)を宿し、喜ぶ二人の姿、サマが生まれた時の幸せそうな二人の姿。
が、状況はどんどん悪化し、”サマを産んで良かったのか?”というところまで追い詰められていく二人。
どんな時でも笑顔を絶やさなかったハムザの表情から笑顔が消えていく・・。
その傍らで、子供たちが、爆撃により亡くなっていく様が次々に映し出される。必死で救おうとするハムザ達僅かな医師達。観ていて辛い・・。
又、アレッポから脱出せず、空爆により負傷した市民を救うために奮闘する医者の姿に頭を垂れる。(劇中、サマを取り上げた医者の死が告げられる・・。)
今作で、最も怒り心頭に達したのが、アサド政権とロシア空軍が”病院”を次々に空爆していく場面が映し出されるシーンである。
ー 病院を空爆するなどという事は、人道上、到底許されない。ー
徐々に包囲されていく、アレッポの市民達。そこには、ワアドとハムザとサマも含まれている。
そして、2016年12月22日 アレッポは陥落する。彼らが決死の思いでトルコへ脱出する場面の緊迫感は凄い。(ハムザは顔が割れてしまっている・・)
<彼らはアサド政権に負けたのではない。サマのため、そして新たに産まれてくる幼子が、安心して空を見上げる事が出来る場所に活動の拠点を移しただけだ。
そして、彼らはこの作品を世に送り出した。そこには、アサド政権とロシア空軍が行った卑劣極まりない事が確かに記録されているのだ。
最後に勝利したのは、どちらなのかは火を見るより明らかである。
彼ら”4人家族”が笑顔で映っている映像に心底、良かった・・と思った。他の多くの脱出された方々も元気で暮らしている事を心から願いたい。>