「For Sama (原題: サマのために)」娘は戦場で生まれた リオさんの映画レビュー(感想・評価)
For Sama (原題: サマのために)
これまで観てきたいくつかのドキュメンタリーの中で、最も心を揺さぶられ、また考えさせられる内容だった。
「アラブの春」から派生したシリアの民主化運動が、各国・各勢力の思惑と絡み合い最悪のかたちで泥沼の内戦と化していく。
シリア最大都市の「アレッポ」を舞台に、内戦の狭間を反体制派として生き抜いた、若い医師とジャーナリスト夫婦の2012年から2016年までの命の記録である。
この作品には、紛争地域での現実が如実に映し出されている。
日々平和の中に暮らす私が、ニュース映像やネット記事を見て分かったつもりでいる戦争や紛争の現実は、あまりにも惨く、悲しく、悲惨で救いが無い惨状であることを知った。
この映画が観る者の心を打つのは、悲惨な現状を「客観的」な立場から描くのでは無く、一人の市民(当事者)として、そして母親としての立場から「主観的」に記録しているからに他ならない。この意味では、一般的なジャーナリズムのセオリーには反するのかもしれない。
その一方で、どんなドキュメンタリー作品よりも観る者に当事者意識を植え付け、問題意識を喚起することに成功している類稀な作品である。 またその視点は、一貫して罪の無い「子どもの命」に向けられている。
言葉では伝えることの出来ない映像の力、映像である必然性を感じさせるとても重要な作品です。
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