「まさかとは思ってはいたが、マジでやりやがったな」ジョゼと虎と魚たち(2020・アニメ版) 映画マンさんの映画レビュー(感想・評価)
まさかとは思ってはいたが、マジでやりやがったな
アニメ版は原作、実写を見ている人と、そうではない人でかなり意見が異なる作品ではないかと思っています。
私情を抜きにするならば星三つを与えても良かったのですが、そうはいかないため星二つにしました。
私がアニメ版を見るに至って一番心配していたことは、毒気のようなもの、つまりは障害者を取り巻くリアルが取り払われてしまうのではないかということでした。
そしてその心配は見事当たりました。予告を見ていた時点でなんとなく予想はしていましたがね。
この作品が描いているのは主に2つであり、それはもちろん恋愛と障害者です。
実写と原作では特に障害者という社会のマイノリティに焦点を当てることに力を入れていたことは、見たことがある人には分かると思います。
障害者差別ももちろん描いていましたが、同情しながらもそれはある意味では憐れみとも捉えられる悪気のない健常者の言動。そして障害者への性的被害。
こうした障害者の残酷でリアルな現実がどちらでも描かれていましたが、アニメ作品においては途中からはほぼ皆無でしたね。単なる恋愛アニメじゃねぇか。なんで障害者をテーマに扱ったのか。
私が本気でちょっと待てよと思ったのは、主人公の恒夫が事故に遭ったシーンです。このアニメは最初はヒロインのジョゼが差別にあう姿を少しは描いてはいましたが、恒夫が事故に遭ってからは、恒夫がいかにそれを克服するかに話の軸がすり替わりました。
え?てなりましたね。いやもうジョゼの障害についての話はどうでもいいの?そりゃ事故も大変だけどさ、障害についての悩みや葛藤はここで終わりってか?いやいや、そんな軽々しく扱っていいような内容なのかね。マジでなんでそんな話の展開にした?
ここが一番気になりましたね。
本作品の話はここまでにしておいて、最近の劇場版アニメに顕著ですが、わかりやすい・泣けるのこの2つに拘りすぎじゃないですかね。
新海誠の『君の名は』以降、この2つを取り込んだ作品が本当に多い。
まぁ、そりゃ王道ですから観客を呼び込みやすいのは理解できますけどそんな手抜きじゃ、いつかどでかいしっぺ返しを食らうんじゃないですかね。
素人の私が言うのも悪いですけど、わかりやすい・泣けるを盛り込んだ作品なんて、誰でも描けるんですよ。しかもその二つを際立たせるために、スパイスとして障害者を利用している点で、この作品は罪深い。
泣かすなんて簡単ですからね。映画館で周りを見ても誰も泣いちゃいないのに、SNSでは「泣いた!」の嵐ですかね。バカバカしい。
あとわかりやすいてのは果たして本当にいいことなのか。今は効率化、簡略化が求められる世の中だと思います。それは仕事にせよ、娯楽にせよ、はたまたメディアでも同じことがいえると思います。そりゃ便利ですから、そうなるのは仕方ない。
でも、わかりやすいってのは楽をするということではないです。
簡単に売れるから楽をして、みんながわかりやすい映画を作り出したらもう終わりです。個性と発展がなくなるからです。
自分の思い・考えを混ぜ込みながら、挑戦し続ける作品こそ、映画史において価値をもつモノとなります。
そうしたことを忘れないでほしいと思いました。