「家族教」星の子 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
家族教
例の旧統一教会問題で明らかになった宗教二世の問題。明らかに怪しい教義やその活動、しかしマインドコントロールされた親は子供がいくら訴えても聞く耳を持たない。
今でも歌手の桜田淳子さんが出席した合同結婚式の映像をよく覚えている。そのあまりにも異様な光景は当時深く脳裏に焼き付けられた。ただ、この教団が時の政権とここまで癒着していることは、元首相銃撃事件が起きて報道されるまでは全く知らなかった。
当時からその阿漕な霊感商法は話題になっていたが、次第に報道も下火になり、世間から忘れられて久しいころにあの銃撃事件が起きた。
犯人の生い立ちを聞いて正直寒気がした。ここまで人の人生を無茶苦茶にしていたのかと。そしてそれ以上に驚いたのはこの教団への強制捜査が政治の力によって止められていたという事実だった。
この教団は元々韓国の朴正煕政権時代に反共を掲げた団体ということで政権に受け入れられ、同じ理由でアメリカ、そして岸信介の時代の日本でも受け入れられ、その頃からその活動は根付いていた。
まさに時の政権とは持ちつ持たれつの関係。なるほど、強制捜査も止められるわけだ。しかし、そのせいで野放し状態の教団によりどれだけの国民がその財産を奪われ人生を奪われてきたことか。それを政権は黙認して放置していたということになる。
あの時強制捜査をおこない、アメリカのように教団を追放していればあのような銃撃事件も起きなかったかもしれない。
人がこの世に生を受けて最初に築く人間関係が親子関係だ。その親子同士の愛情が深ければ深いほど家族の絆は強くなる。
家族の絆が強ければお互いを無下にはできない。どちらかがこのような怪しい宗教にはまってしまえば他人のように簡単に切り捨てることはできない。マインドコントロールされているなら何とか人生をかけてでもその洗脳から解いてやりたい。
家族の絆は美しい反面、それにより自分の人生が縛られることにもなる。
ちひろは生まれた時から病気がちの子供であり、育児に悩んだ両親は藁にもすがる思いで宗教にのめりこんだ。それは娘を愛するが故であった。
両親の愛情一杯に育てられたちひろも無事に中学生になり、自分を愛してくれた両親を同じように愛していた。そして両親が信じているものを同じように信じていた。彼らが行う行為に違和感を感じながら。
しかし、慕っていた教師に両親の奇行を目撃され残酷な言葉を投げかけられたちひろはショックを受ける。やはり両親のやってることはおかしいんだ、大好きな姉が家を出て行ったのもこのせいなんだ。両親がこうなったのは自分のせいなのかと悩むちひろ。
彼女はすべての元となった「金星の恵み」をいつも手放さなかった。でも幼い頃から姉と二人で家では禁止のコーヒーを飲み続けていた。苦いコーヒーを飲み干せるようになった姉は家を出ていき、ちひろも中学卒業前にはコーヒーが飲めるようになっていた。
それでも彼女は一緒に暮らそうという叔父の申し出を強い意志で断る。彼女も両親と同じくマインドコントロールされているのだろうか。しかし彼女は「金星の恵み」に効果がないことに気づいていた。でも姉のように両親を見捨てて出ていくことは彼女にはできなかった。自分を愛してくれた両親を裏切ることはできない。それは彼女なりの強い決意であった。
愛情が深ければ深いほど家族の呪縛からは逃れることができなくなる。強いきずなで結ばれているだけに一方が地獄に落ちれば、ともすれば道連れになることも。
この家族の行く末はあえて描かれない。ちひろが今後長い時間をかけて両親のマインドコントロールを解いていくのか、あるいはそのまま両親とともに信者として生きていくのか。
満天の星空の下、三人の小さな家族はたがいに寄り添い流れ星に願いをかける。
願うのなら星だけにしておいた方がいい。その方がお金はかからないし、元来、宗教とはそういうものだったはずだ。