「リアル だけどそれだけ」星の子 Rewind Thatさんの映画レビュー(感想・評価)
リアル だけどそれだけ
あまりに観客に投げすぎて、何も語っていない印象です。複雑な状況をリアルに描くのは成功していますが、それはドキュメントでも良いですよね。観客の心に一石を投じたい、この映画をみて観客が何かを考えると良い、と思っているのでしょうか?しかし監督の伝えたいことがそこになければ、それはただの映像に過ぎないのでは?娯楽的な要素の少ない映画を志向したのは理解できますが、何も語らなければ何も伝わってきません。もちろん、この映画を観て監督の意思を感じ得ない自分の鑑賞者としての実力不足は言わずもながであります。
ま、それはストーリーや主題の話であり、演技や演出はとても高度で見応えのある物でした。最初に少し説明せず時系列をいじったところなどは複雑ではありますが、ウォーミングアップ的に引き込まれました。長回しや不自然な間の長さも、素晴らしい演技を存分に楽しめます。また、街や学校や最後の合宿などのシーンも本当に素晴らしく丁寧なリアルを感じました。黒木華さんをはじめとする宗教に光をみた人の演技が凄かったです。
信仰に生きる人の難しさを感じました。どっちに進むも地獄です。まだ社会生活を成り立たせているだけマシかなとも感じます。信仰を突き詰めて神に仕える喜びの中に破滅する人は大変多いですので。宗教二世については、また別の問題があります。当然、生活する内に自ら信仰に目覚めるならば全く問題ないですが、大部分の仏教徒のように、なんとなくで信仰してしまうとかなり大きな葛藤を抱くことになると思います。本当に宗教に惚れ込んでしまったら、自分の子供に布教しないのは完全に欺瞞であり自らの信仰にウソつく行為なので、子供のうちはある程度染まってしまうのでしょう。そこから疑問抱き、自分で決断することが重要だと考えます。
この映画では明らかに異常な宗教なので、周囲も自分の態度を決めやすいですが、これが表に出ないような宗教なら問題はさらに深刻になっていたでしょう。そういう意味ではかなり分かりやすい宗教でした。