「宗教の話ではなく、少女の成長物語だと思います。」星の子 スキピオさんの映画レビュー(感想・評価)
宗教の話ではなく、少女の成長物語だと思います。
信仰宗教を信じる一家に育った少女の物語です。生まれつき病弱だった次女ちひろの為に始めた信仰宗教。両親はドップリつかり、家はドンドン貧しくなるが、両親は純朴で二人の娘にありったけの愛情をそそぐ。でも長女のまーちゃんは、そんな宗教が嫌でなのか、家を飛び出してしまう。次女のちひろは、純粋に真っ直ぐに成長し、中学3年生になる。そんなちひろのお話。
ストーリー的に、考えさせられる映画。ヒロインのちひろにとっての関心事は、宗教ではなく、家出したお姉ちゃんの事、一目惚れした数学教師の事、親友が彼氏と喧嘩している事。こういう思春期の少女の話なんですね。
ちひろは小五の頃からイケメンに目覚め、ともかくイケメンなら直ぐに気になってしまう。一目惚れの数学教師も、信仰宗教のお兄さんも、親友の彼氏も、背が高くてシュッとした顔が大好物。「イケメン教」なんだな。で、今は一目惚れの数学教師にゾッコン。
ここでのメタファーは「授業」です。無駄に数学の授業が細かく何度も繰り返します。でもちひろはノートに教師の顔を描いて授業を一切聞いていない。つまり「顔」だけで中身には興味ない恋愛をしているってこと。
それが教師の正論だが心ない言葉に熱が醒めて、馬鹿だが優しい親友の彼氏の言葉に救われる。それで「イケメン教」に頼らず、自分の価値観を認めてくれる男を良いと思えるように成長する。
家出した姉との間のメタファーが「コーヒー」です。宗教一家は体に悪いとコーヒーを飲まない。でも、それに反発する姉から、こっそりコーヒーの味を教えてもらう。「苦い」と閉口するも、姉は「いずれ分かる味だよ」と言われ、中学になってコッソリ飲んでいる。
ちひろにとって、家族の外の世界はコーヒーのような苦いもの。背伸びして飲んではみたものの、やはり苦い世界。それが叔父さんとの喫茶店のシーンなんだろう。コーヒーを飲んで背伸びはしてみたが、自分はまだ両親の元を選ぶ。
う〜ん長女の家出の理由は本当に宗教なのかな〜?叔父さんの策略に一度は加担するも母親を守ろうと対決する訳で、本当は恋愛なんじゃないかな。それがコーヒーの苦味なのかも。
家族と宗教の関係がタイトルにもある「星」なんでしょう。ラストで両親は三人一緒に流れ星を見たいと、ちひろを連れ出す。両親は流れ星を三人で一緒にみたいと言うが、ちひろは「そんなことよりお風呂の時間は?」「風邪ひくから帰ろうよ」と言い、姉の出産の連絡に「元気で暮らしていて本当に良かった」と涙して、流れ星が見えない。
つまり、もう宗教は家族を照らしてくれない=必要がない、というメタファーかな。
病弱な次女を懸命に愛す故に宗教に頼った両親、自分の見た目に自信がなくイケメンへの憧れにすがった次女。信仰宗教もイケメン教も、そういう逆境に立った時に支えとして頼った存在に過ぎないのです。で、そんな家族が家族を頼りに生きていこうとする話、じゃないかな〜。
主演の芦田愛菜は、この純粋で真っ直ぐ育った少女の役にぴったりです。愛敬はあるが美人でも可愛い訳でもない等身大の中学生を好演しています。
姉のまーちゃん役の蒔田彩珠も流石ですね。万引き家族や志乃ちゃんは〜、の女優さんで存在感あるな〜。ちひろの両親が永瀬正敏と原田知世、宗教にお姉さんが黒木華、とがっちり固めています。
で、意外と好きなのが、この映画はとても「静かな」映画です。みんな小さな声で話し、物音も静か。それが急に大きな音を立てたり、怒鳴りだすと、すごく緊迫感がでる。なんか、ちひろの世界を壊さないで!、と感情移入してしまいます。
数学教師に親の宗教儀式を見られた時の、ちひろの疾走と、アニメ表現も上手いです。あそこは、あくまでもちひろの心情描写なので、商店街を駆け抜ける実写も含め、ああいうデフォルメがぴったり。
地味なので一般受けはしないでしょうが、良い映画でした。
https://hoshi-no-ko.jp